日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S204
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地図画像を活用した東大空間情報科学研究センターの対外サービス
*小口 高白石 陽高橋 昭子佐藤 英人相良 毅岡部 篤行
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抄録


I.はじめに
 東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)は,1988年に日本学術会議から提出された国立地図学博物館(仮称)設立の勧告のうち,研究部門の設立を具現するものとして1998年に発足した.CSISは必然的にGISの研究を主要な目的として活動しているが,様々な対外サービスにも力を入れてきた.これらのサービスは基本的に研究者を対象とするものであるが,具現されていない国立地図学博物館の展示・サービス部門を補うという側面も持っている.
 本発表では,CSISの対外サービスのうち,地図学博物館と関連が深いと考えられる地図画像を活用したサービスの事例を紹介する.なお,該当するサービスのうち,「デジタル地図学博物館」については今回のシンポジウムで詳しい報告を別途行うため,ここでは紹介しない.

II.インターネット・マップ・サーバ
 1990年代におけるインターネットの普及およびウェブ・ブラウザとHTMLの開発により,地図画像などの情報を多数の人が容易に閲覧できるようになった.その後,Java言語の開発などにより,ウェブ・ブラウザ上で縮尺や表示位置を自由に変化させながら地図を閲覧することが可能となった.このようなウェブ・ページを提供するシステムはインターネット・マップ・サーバ(IMS)と呼ばれており,種々の情報提供に広く用いられている.
 かつてはIMSの構築に際して,情報科学・工学の素養を持つ人が自前でソフトウエアなどを整備する必要があったが,1990年代後半以降,ESRI社などの主要なGISベンダーが,製品とリンクしたIMSのエンジンを販売するようになった.小口らは,CSISの発足後間もなく,ESRI社からセンターに寄贈されたArcView IMSを利用し,1998年~2002年にかけて次の3種類の情報を地図画像とともに公開するIMSを整備した.1)日本の地形・地質情報(扇状地,テフラ露頭,河川堆積物,地形写真),2)ポーランドの歴史的景観情報(教会,城郭,街並,景観写真),3)世界の古環境情報(関連する論文の概要と研究地域).これらは対象地域の地理や地学に興味を持つ人への情報提供を目的とし,特に研究の初期段階における基礎的な情報の収集を支援することと,各地域に関する地誌教育への貢献を重視している.このシステムは現在も稼働中であるが,新規のデータ登録は労力の関係で進んでおらず,コンテンツの充実が今後の課題である.

III.カタログサービス
 カタログサービスは,空間データの名称,問い合わせ先,空間データに関する説明,サムネイル画像などの検索・閲覧を可能とするWebサイトである.検索の際には,キーワードの利用や地図画像を用いた対象地域の指定が可能である.検索を実行すると,条件にあてはまる空間データの名称,問い合わせ先,データを保有している組織や個人が作成したWebページへのリンク,データの空間分布を示す地図画像などが表示される.現在,カタログサービスには約14,000件の空間データに関する情報が登録されている.
 従来は,クリアリングハウスを用いて空間データの所在情報を公開する場合が多かったが,メタデータの作成の手間やシステムの運用の困難さなどが問題となっていた.カタログサービスは,これらの問題の克服を目指したものであり,空間データを探している人と,保有している空間データの所在情報を公開したい人が利用できる簡便なシステムとして整備された.今後,本サービスの認知度を高め,利用を促進していく必要がある.

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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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