抄録
中国の土地利用変化における市街地拡大の意味
改革開放政策導入以後,中国の都市は経済成長の中心地として様々な機能が集積し,人口増加と市街地の空間的拡大が進んでいる。中国の国土全体に占める都市地域の比率は小さいが,市街地の拡大は周辺地域の農地を直接的に蚕食している。また,市街地の空間的拡大は,社会主義市場経済という中国独特の経済システムが都市の経済的機能や市民の生活の質的変化を推し量る指標ともなる。
中国における行政上の市は地級市と県級市に分けられるが,本報告では地級市を対象とし,都市人口として市区非農業人口を,市街地面積の指標として建成区面積を用いる。
なお,全284都市を,都市人口の順位規模によって,6つのグループに分けて考察する。6グループとは,中国を代表する北京と上海(I),天津や南京など省都クラスの都市を主体とする300万人以上の8都市(II), 200万人以上の西安,長春などの省都を含む10都市(III), 100人以上の昆明や長沙を含む29都市(IV),58万人以上の51都市(V),58万人未満の183都市(VI)である。
人口と市街地拡大の状況
全都市の1994年から2003年の9年間の市区非農業人口増加率は56.8%であったが,人口規模が58万人から200万人のIVとVでは約65%の増加率である。これに対して際だって大きいシャントウと仏山を除くと,IIグループは41.9%であり,全体としては人口規模の小さい都市の人口 増加率が大きい。
一方,同期間の建成区面積増加率は82.6%であった。グループ別に建成区面積増加率を見ると,IIグループが180.6%で最も大きく,Iグループが104.9%で続く。IIIグループ以下は80%前後である。シャントウと仏山を除いたIIグループは122.2%であるが,先述した都市人口増加の特徴と反対の傾向を示しており,全体として人口規模が大きい都市で建成区面積の増加が顕著である。
その結果,市街地の人口密度は年々低下している(図1)。特にI~IIIの人口規模の大きい,省都クラスの都市において,人口密度の低い市街地が急速に形成されている。
都市の経済的機能と市街地拡大
このような中国の都市における人口規模別の市街地拡大の特徴が生み出される要因やメカニズムを理解することは,将来の中国の土地利用変化を考えるうえで重要である。
1980年代以降の中国の都市では,経済開発区の開発などによる工業化が進むとともに,上海を代表とするように世界的な都市システムの中で成長する都市もある。『中国大企業集団2004』をもとに,中国を代表する大企業の本社所在地を集計すると,人口規模200万人以上のI~IIIグループ20都市で,全企業数の45.3%を占め,従業員数では全体の58.4%を,総資産額では実に87.2%を占めている。
産業別就業者数においても,第二次産業と第三次産業就業者数は,200万人までは第二次産業就業者が大きくなるが,200万人を超えると逆に第三次産業就業者が上回る。
このように中国の都市では,工業機能の強化が進む一方で,人口規模の大きい都市ほど第3次産業の経済的機能の集積が進み,各省や国家の中心都市として成長している。このような都市では,商品住宅の開発も著しく,特に最近では,郊外地域における別荘住宅の開発も顕著になっている。土地利用政策・住宅政策の変化とともに,中国の都市の空間的拡大の背景には,このような経済的要因の存在も考慮しなければならない。
文 献
中華人民共和国国家統計局編(2005):『中国大企業集団2004』中国統計出版社,693p.
