日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S403
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旧版地形図・古空中写真の座標精度
*長谷川 裕之
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抄録

1.はじめに
 国土地理院では、過去の土地利用などを把握できる資料として、明治期からの地形図、昭和前期からの空中写真を所蔵している。これらは、大規模な土地改変が進行する以前の景観を知ることのできる貴重な資料であるが、現在の景観情報と重ね合わせた際の位置精度についてまとめられた情報は少ない。この報告では、上記資料の位置精度について述べる。
2.第1軍管地方二万分一迅速測図原図の精度
 「第1軍管地方二万分一迅速測図原図」(以下迅速測図原図)は、国土の詳細な地図の整備を早急に進めるため、関東平野のほぼ全域と房総・三浦半島について、明治13年から明治19年にかけて陸軍参謀本部が作成した地図である。迅速測図原図は、正規の三角点の成果に基づかずに図根測量により作成されている。従って、迅速測図原図に描かれた地物の相対的な位置は正確であるが、緯度経度の記載はない。このため、迅速測図原図の幾何補正に最適な幾何補正式を決定し、同時に幾何的ゆがみの大きさを明らかにした。現在の多摩市およびつくば市の計5図葉に関して検討した結果、迅速測図原図の幾何補正にはアフィン変換が適当であり、その位置精度(基準点における変換残差)は約13mであることが明らかになった。アフィン変換後のx軸, y軸のなす角度は89.3度であるため,迅速測図原図の全体的歪みは小さく、地物の相対的な位置関係は正しいと言える。隣接する迅速測図原図の接合精度の評価では、接合対象が同一測板に属するか否かに係らず、約27mの位置ずれが認められた。
3.1/25000旧版地形図の精度
 1/25000旧版地形図(以下旧版地形図)に関しては、1/3000東京都地形図を基準とした場合、現在と同様の写真測量によって作成された1960年代以降の図では約7m、平板測量で作成された1950年代以前の図では約20mの誤差を有するという結果が得られている。これは、旧版地形図でも測量方法によりその精度が大きく異なることを示しており、位置精度の高いデータが必要な場合には留意が必要である。
4.古空中写真の精度
 空中写真から地理情報を取得する場合、何らかの方法で空中写真の定位・投影を行う必要がある。この際、空中写真をバンドル法などで標定し、空中三角測量を行って計測を行うのが最も精度が高い。しかし、米軍写真を始めとする一部の空中写真では、標定に必要なカメラ定数が得られないこともあり、どのくらいの位置精度が得られるのか明らかになっていなかった。このため、米軍写真のカメラ定数を推定して厳密な計測を行うための手法を開発し、その精度を評価した。また、空中写真を簡易的に標定する手法として、アフィン変換による投影変換を試み、その精度を評価した。多摩市北部(標高差約70m)において104点の基準点を用いたアフィン変換を行った。この結果、基準点における平均残差は6.2mとなった。中心投影に基づく変換では、地形データを用いない場合(基準面投影)5.8m、用いた場合1.4mの平均残差となった。また、厳密な計測手法を用いた結果では、1.4mの平均残差となった。この結果から、地形データが存在しない場合は、厳密な計測手法を用いることが適当であるといえる。また、地形データが存在する場合は、空中写真の投影特性に基づいた変換を行うことで厳密な手法とほぼ同等の精度が得られることが分かった。ただし、人工改変などにより、空中写真に写された地形と利用した地形データが異なると、大誤差の原因となることに留意が必要である。
5.おわりに
 国土地理院で所蔵する地形図、空中写真をGISなどで利用する際の位置精度について報告を行った。現在これらの資料のデジタル化が進められているが、利用者が個別に座標付与を行うのは非効率であることから、GISなどでの利用を想定した、位置情報を付与したデータの整備も検討課題であると考える。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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