日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 405
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積雪寒冷地における高齢者の生活環境と居住地移動
北海道室蘭市を事例として
*山田 佳奈子
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抄録

1.はじめに
 近年、都市の高齢化が急速に進んでいることから,高齢者研究の分野では都市における生活空間に焦点を当てたものが蓄積されている。そこで問題となっているのは、増加する高齢者に対しての生活環境の整備である。自家用車を手放し、徒歩での移動も困難になる高齢者は、食料品店や医療施設への近接性が生活環境において特に重要となる。しかし,道路の傾斜や積雪寒冷地における冬季の路面凍結などの地理的制約は、高齢者の移動を困難にしている。また、すべての高齢者に生活の利便性を向上させるためのサービスを提供するのは容易ではない。そこで、高齢者の生活環境を詳細に調査し、効率の良い高齢者政策を立てることが急務となる。
 そこで本報告は、北海道室蘭市を事例として、積雪寒冷地における高齢者の生活環境を明らかにする。室蘭市は積雪寒冷地であり、傾斜地が多いことから、行動の地理的制約が大きいと考えられる。そのため、まず高齢者の生活環境の概況を把握する。次に、2000年と2005年の転居データから高齢者の居住地移動を分析し,それによる高齢者の生活環境の変化について検討する。さらに本研究は,室蘭市の高齢者の居住環境改善のための取り組みについて考察する。ここでは、特に室蘭市における高齢者の都心居住奨励政策に注目する。として先進的な取り組みを計画している北海道室蘭市を対象とし、積雪寒冷地における高齢者の生活環境と居住地移動を明らかにする。最後に、これらの結果を統合して高齢者の生活環境と居住地移動に関する考察を行う。

2.高齢者の生活環境
 居住地域において、傾斜角が5度以上である地域が図1の■で示した部分である。この地域に位置する統計調査区域の高齢者率は母恋地区など比較的高いところが多く、このことから多くの高齢者が傾斜の大きい地域に居住しているといえるだろう。そのような地域に居住する高齢者は、買い物施設や病院へのアクセスが困難になっている。   
 特に日常的に必要な食料品については、商店街の不振等により近くで購入することが難しく、遠く離れた大型店まで行かなければならず、高齢者に長距離移動を強いている。

3.高齢者の居住地移動
  図1にそれぞれ、2000年・2005年における高齢者の転居状況を示した。これによると、2000年は白鳥台や高平、八丁平など郊外への移動が目立つ。しかし2005年にはそれらの郊外化の動きは減少し、中心市街地である中島地区周辺への移動が目立ってきている。このことから、高齢者が生活の利便性を求めてまちなかへ居住地を移す傾向にあることがわかる。

4.室蘭市の政策-「まちなか居住」の推進-
 室蘭市では高齢者政策として、「まちなか居住」の促進を計画している。これは、高齢者を生活環境の整った都心部へ移動させることにより、生活の利便性を確保しようとするものである。その先進的な事例として、民間が建設した母恋地区の高齢者住宅があり、30世帯程度が入居している。この住宅の近隣には大型スーパーや病院があり,徒歩行動による生活環境の向上がみられる。

5. おわりに
 室蘭市では傾斜地に高齢者の居住が集中しており、買い物や病院へのアクセスを困難にしている。しかし近年、当市では政策として高齢者の都心居住を奨励しており、その移動によって高齢者は転居先で日常品販売店や医療施設への近接性を高めている。これらの転居世帯について、転居前と転居後の生活環境を比較し、居住地移動が与える影響をより詳細に分析することが今後必要である。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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