日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 406
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市街地形成過程と人口高齢化に関する研究
東京都墨田区を事例に
*深澤 栄太
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抄録


1.研究の目的
 東京都においても,高齢者の動向は無視できない現状にあり,今後の地域社会の動向を決定しうる大きな要因ともなっている.そのうえでも,東京区部におけるインナーエリア地区の人口高齢化の把握は必要性が高い.
 既存研究では,インナーエリア地区に存在する住宅更新の困難性についての問題や,その結果として生じる人口高齢化について論じられている.そこで,本研究では,既存研究によって得られた知見を,他の地域に適用した後,対象地域における幅員4m未満の道路の分布と,住宅更新が実施されていない住宅の分布から,人口高齢化の現状を把握することを目的とした.その際の研究の視点として,既存研究では,十分な議論がされてこなかった,地域の市街地形成過程に着目した.地域の市街地形成過程に着目することは,地域の住宅更新の困難性をより総合的にみることになり,さらに,インナーエリア地区における住宅更新の困難性と人口高齢化との関係の議論を深める点でも,一定の意義があると考える.

2.調査方法および対象地域の選定
 まず,対象地域の市街地形成過程については,旧版地形図と文献,住民からの聞き取り調査などをもとに記述を試みた.次に,対象地域における幅員4m未満の道路,いわゆる細街路の把握については,主に2004年の住宅地図から分析を行い,一部,現地調査で補った.また,住宅更新の状況については,1973年,1984年,1994年,2004年の住宅地図から比較,分析を行った.その際,建物の形状と世帯名が変わらない建物を,更新されていない住宅と判断し,本研究では未更新住宅とした.これらをもとに,対象地域における細街路と未更新住宅の分布を示した.さらに,高齢者世帯が形成されている現状を確認するために,住宅更新を実施していない世帯と,住宅更新を実施した世帯への聞取り調査を行い,事例調査を試みた.  研究対象地域としては,墨田区京島2・3丁目と,それに隣接する八広2・3丁目を選定し,詳細な事例分析および比較を行った.

3.研究結果の概要
 対象地域において,老年人口比率が高い京島2・3丁目,八広3丁目では,細街路と未更新住宅の分布が,地区の全域に及んでいる.これは,関東大震災や第二次世界大戦による戦災を免れ,区画整理事業区域外として,短期の間に宅地化が進行したことによる.このような地区では,住宅更新は難しく,第1世代のみの残る世帯が形成されやすい.さらに,現状の狭小な居住面積を考慮すると,転出した第2世代が,同地区に再び居住する可能性は低いと考えられ,地区内における人口高齢化は,当面さらに進行するものと考えられる.
 その一方で,対象地域において,老年人口比率が低い八広2丁目では,細街路や未更新住宅の分布に偏りがみられ,その割合の少ない地区がある.これは,宅地化の進行が周囲と比べて遅れたことによって生じた.このような地区では,周囲と比べて住宅更新が実施しやすく,第2世代や第3世代との同居が比較的容易となっている.

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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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