日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 407
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地方都市におけるフードデザート問題の現状分析
*岩間 信之田中 耕市佐々木 緑駒木 伸比古斎藤 幸生
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抄録

1. 背景
 本報告は,日本の地方都市におけるフードデザート(Food Deserts : FDs)問題の実情を明らかにすることを目的とする.FDsとは,生鮮食料品が購入困難なダウンタウンにおける一部のエリアを意味する(Whitehead, 1998).スーパーストアの郊外進出が顕在化したイギリスでは,1970~90年代半ばにinner-city / suburban estateに立地していた中小食料品店やショッピングセンターが相次いで廃業した.その結果,経済的理由などから郊外のスーパーストアへの移動が困難なダウンタウンの貧困層は,都心に残存する雑貨店での買物を強いられている.このような店舗は商品の値段が高く,野菜やフルーツなどの生鮮品の品揃えが極端に悪い.そのため,貧困層における栄養事情が悪化し,ガンなどの疾患の発生率が増加している.Wrigley, et al (2003)は,FDs の解決に向けた議論の中で,地理学からのアプローチの重要性を指摘している.

2. 研究の目的と枠組み
 FDsは,社会的排除(Social exclusion)の一角をなす社会問題である.FDsの背景には,社会格差の拡大や,教育,雇用機会,公衆衛生の不平等,地域コミュニティの崩壊など,多くの問題が内在する.FDsに関する諸問題の中でも,人口の高齢化と中心商店街の空洞化の進む現在の日本では,「高齢者世帯」への「健康な食料の供給」が喫緊の研究課題といえる.昨年末には,高齢者の栄養事情が全国的に悪化しているとの報告もなされている(全国老人クラブ連合会).
 本研究の目的は,FDsがもっとも顕在化している地方都市を事例に,実態の解明と問題解決に向けた議論を進めることにある.研究対象地域は茨城県水戸市である.本研究では,海外におけるFDs の研究動向を整理したうえで, 都心居住高齢者への聞き取り・アンケート調査,GISを援用したFDsエリアの確定,日本の地方都市におけるFDsの定義化,を実施する.その後,問題解決に向けた議論を進める.今回は,2006年7月~8月にかけて実施したアンケートの集計結果を中心に報告する.

  3.都心居住高齢者を取り巻く生活環境の実態
 2005年度国勢調査によると,水戸市全体の高齢者率は18.6%,中心部では25.4%である.アンケート調査では,中心部に居住する70~80歳代の高齢者約150人から有効回答を得ることができた.集計の結果,生鮮野菜の摂取量や購入金額は全国平均を大きく下回ることが明らかとなった.高齢者世帯の大半は自家用車を所有しておらず,週に平均2~3回,長距離を徒歩で買い物に出かけている.片道40分以上の徒歩移動やタクシーの利用,駅ビルやドラッグストアでの食材購入,民間事業所による買い物ヘルパーサービスの利用なども目立つ.その一方で,行政が進める配食サービスは利用者が予想外に少ない.また,自宅から店までの物理的距離は近いが,各種交通障壁のために迂回せざるを得ないケースもみられる.現行の高齢者福祉事業には,いくつかの問題があることが浮き彫りになった.

主要文献
荒木一視,高橋 誠,後藤拓也,池田真志,岩間信之ほか.2007.食料の地理学における理論的潮流-日本に関する展望-.E-journal GEO. (受理済み)
岩間信之ほか2006.地方都市におけるフードデザート問題の拡大.日本地理学会2006年度秋季学術大会予稿集.
駒木伸比古ほか2006.日本におけるフードデザート問題の進展. CSISDAYS2006 研究アブストラクト・カタログ.
田中耕市2001.個人属性別にみたアクセシビリティに基づく生活利便性評価.地理学評論74:264-286.
SASAKI, M., IWAMA, N., KOMAKI, N., and TANAKA, K. 2006. Japanese Food Deserts Issues. Twenty-Sixth Annual ESRI International User Conference, Map Gallery.
Whitehead, M. 1998. Food deserts: what’s in a name? Hearth Education Journal 57: 189-190.
Wrigley, N., Warm, D. and Margetts, B. 2003. Deprivation, diet and food-retail access: finding from the Leeds ‘food deserts’ study. Environment and Planning A 35: 151-188.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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