日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 522
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保護者の養育態度と空間的行動による幼児の空間認知
福岡市近郊における3歳~6歳の保育園児を事例に
*謝 君慈
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抄録


1、はじめに
 2006年春、報告者は保護者にアンケートを配って実施した調査の結果を「保護者の養育態度による幼児の相貌的な環境知覚」というテーマで日本地理学会で発表した。今回の試みでは、報告者は前回の調査と同様に、福岡県那珂川町におけるA保育園の幼児を研究対象にした。A保育園の園児と直接接触することによって、幼児の内面的な世界を知るという目的で面接調査を実施した。
 これまで地理学、建築学では子どもの環境知覚を取り組んだ研究が蓄積されてきたが、幼児を対象とした研究は少ない。日本の教育心理学においては、幼児を対象にして室内空間で実験を行った子どもの空間認知に関する研究が多く見られるが、本報告のように保護者の養育態度と空間的行動が幼児の空間認知に影響を与えるという視点には言及されていない(今川1981;川床1985;今川1986;山本1987;藤本1994)。
2、研究目的と方法
 本研究の目的は、日常生活の中(保育園の送迎も含む)で、外の空間的行動の範囲が、保護者の空間的行動に大きい制約と影響を受けている3歳~6歳の幼児における空間認知のあり方、及びその内部に含まれている認知要素や認知方法などを明らかにすることである。報告者は現地調査の時に、実際に撮影したA保育園の周辺写真と、幼児が関心を持ちそうな周りの風景に関する景観写真を用い、以下の三つの視点で2006年7月18日から8月2日にかけてA保育園の遊戯室で幼児一人ずつに面接調査を行った。1)都市近郊である那珂川町に居住しているA保育園の幼児を対象にして、幼児たちが通園路を含む周りの風景に対する空間認知の中には、リンチ理論の五つの要素に当てはまる要素があるかどうかを探る。2)A保育園の幼児が回答した理由を分析する方法によって、幼児たちが周りの環境に関する認知方法、及び空間認知のあり方を明らかにする。3)幼児を対象とした本研究調査の結果と、アメリカ市民を対象としたリンチ理論の結果を比較することによって、幼児と大人の空間認知方法、或いは認知過程の異なりを探る。
3、研究対象地域の概要
 本研究の対象地域は、福岡市の都心部からわずか13キロメートルの所に位置し、豊かな自然環境と都会の特色を備えている福岡県那珂川町である。対象は那珂川町の中心部に位置しているA保育園における91名の3歳児~6歳児である。
4、結果の概要
 本研究では、都市外縁部に居住しているA保育園の幼児の空間認知にはリンチ理論の中の「パス」「ディストリクト」「ノード」「ランドマーク」の四つの要素が存在していることを検出した。また、「パス」の重要度が「ランドマーク」より割合高く見られた。しかし、幼児の回答内容を分析した結果、幼児にとっては「ランドマーク」の重要度が減少したというより、幼児の空間認知の発達は年齢の上昇とともに、保護者の空間的行動による「移動経験」「楽しい経験」「保護者に与えられた知識」「視覚的経験」「聴覚的経験」「感覚的経験」などの要素の累積によって、単に「ランドマーク」に頼るだけの認知方法から「ディストリクト」「ノード」及び「パス」などの要素と繋がり、広がっていくという方法へと変化すると解釈できた。
 こうした幼児の空間認知方法は本研究で踏まえたリンチ理論と異なる結果が現れたが、都市への新規参入者を対象としたゴレッジの「アンカー・ポイント」理論に相当する結果が見られた。
 また、A保育園の幼児の認知要素には年齢差と性差は少ないという結果も本研究で得られた。そこで、子どもは発達とともに行動範囲と知覚環境も発達していくという6歳以上の児童を対象とした従来の先行研究と異なる結果が見られた。これは保護者の養育態度、及び保護者による空間的行動や移動経験や楽しい経験などの要素の影響が大きいことを示唆している。
5、今後の課題
 今回の研究調査では、幼児の空間認知のあり方や、認知要素、方法と認知過程などが明らかとなった。しかし、農村部、海外などの異なった地域における幼児の空間認知の実態と異質性を探究する試みが今後の課題になる。

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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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