抄録
環境問題の解決に向けた現在の大きな流れの一つとして、持続可能な地域づくりの重要性が声高に叫ばれている。この持続可能性は、子どもの地域の環境教育に大きく関係しているにもかかわらず、子どもの遊びの中にある、自然や社会環境とのやりとりを大人がどう捉えていくのかという観点について、議論されることは少ない。環境教育は「地域環境に対する愛情と理解にもとづいた環境形成者としての自覚を持ち、地域の環境保全に関わる行動がとれる環境市民の形成」を目指す教育だといわれる。未来の地域環境づくりを担っていくのは子どもたちであるはずだが、その地域への愛着や誇りは一体どのようにして育まれていくのだろうか。その手がかりの一つとして、筆者は、地域の中での子どもたちの遊ぶ環境に着目した。すなわち、子どもたちの遊ぶ環境を豊かにすることが地域への愛着につながると考え、まず子どもたちの遊びの現状を探ることで問題点を明らかにし、次いで子どもたちが遊ぶことを大人がどのように支援していけばよいかを考えることにしたい。
子どもたちが外で自由に遊ぶことは、豊かな人間形成のための貴重な経験であるとともに、地域に残された自然環境と接する機会でもあり、環境教育や地域社会との接点もそこにあると考えられる。一方において、地域社会で発生する事故や事件に子どもが巻き込まれるケースが相次いでおり、子どもたちが外へ出る機会はますます減っているのが現状である。こういった閉塞状態の中で、子どもと一緒になって地域に遊び場を作ろうとする試みが日本でも増えてきており、「冒険遊び場」はその一つである。門脇は、このような冒険遊び場の存在は、子どものためのユニークな遊び空間というだけでなく、大人たちが地域をさらによくしようとする活動の拠点になることが期待されていることを指摘し、子どもの遊び場に地域づくりの拠点としての機能をも認めようとしている。ハートの「子どもの参画」を含めて、子どもの遊びに対しては、教育的な視点に重きをおく傾向があり、また、遊びを利用して地域環境計画に取り込む実践と考えられなくもない。子どもの遊びを教育的視点でのみ考えるのではなく、子どもが楽しく遊べる―フロー経験を生む核となる―という遊びの原点を生かすことも地域づくりには大切ではないだろうか。
地域の中で子どもたちが自由に楽しく遊ぶことを支援する仕組みについて考察するために、地域の中に残されている自然空間で子どもたちが遊ぶ状況を設定し、遊びに対する大人の意識や行動が子どもたちの遊びにどのように影響しているかを明らかにすることを目的として、仙台市郊外に住む小学生とその親を対象に意識調査を行った。その結果、過半数の親が子どもにもっと外で遊んでほしいと望んでいることや、危険を伴う遊び(木登りや川遊びなど)に対してもある程度の許容を示したが、子どもたちが大人から「行ってはいけない」といわれている場所の多くは、地域を流れる川や里山のような自然空間であった。その一方で、子どもの外遊びに対する理解や遊びの危険性に対する許容度が高い親の場合、その子どもは地域の自然空間で遊ぶ傾向が高いことがわかった。以上の結果から、大人の意識や行動が、子どもが地域の中で自由に遊ぶことに対して、相当に強い規制を与えている現状があらためて明らかになったといえる。
地域に残されている自然空間とのやりとりの中に、環境教育の基底が存在することは確かなことであり、そこはまた子どもの遊び場づくりの宝庫である。地域の安全性が問題とされる中で、子どもが地域の中で遊ぶことを支援していくためには、子どもが遊びを楽しむことそれ自体の意味を再考することも必要なのであり、子どもの遊びを地域づくりの手段にしてはならないと考える。