日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 606
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大都市近郊の横浜市寺家地区におけるルーラリティの商品化とその持続性
商品化する日本の農村空間に関する調査報告(2)
*菊地 俊夫
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抄録

研究目的
 横浜市青葉区寺家地区を事例にして、大都市近郊におけるルーラリティの商品化のシステムとその持続性を明らかにする。横浜市青葉区寺家町は、市域の最北端、鶴見川の上流部に位置し、丘陵の尾根で東京都町田市三輪町と、鶴見川を挟んで川崎市麻生区早野と境界を接している。寺家町の人口と世帯数は、それぞれ322と135である(2006年現在)。

分析フレームワーク
 ルーラリティ(農村らしさ・農村性)は農村地域の生態的基盤(自然的環境・土地・水域・動植物相)と経済的基盤(農業・農業的土地利用)、および社会的基盤(農村コミュニティ)の有機的な相互関係によってつくられる。したがって、それらの結びつきをシステムとして捉え、農村空間の商品化は1つの基盤の変化のみ生じるのでなく、1つの基盤の変化が全体のシステムに及び、全体のシステムとして生じると考える。

生態的基盤
 寺家地区は多摩丘陵のほぼ中央部に位置し、標高70~60mの丘陵地と、その丘陵が浸食されてつくられた標高25m前後の沖積低地とからなる。丘陵地はコナラやクヌギの混交樹林で覆われ、かつては人々の生活や経済活動と密接に関わっていた。丘陵地以外の土地は、鶴見川沿いの氾濫平野と小さな谷戸からなり、それらは水田や畑、果樹園に利用された。近年では丘陵地の住宅開発が進み、寺家町のルーラリティは失われつつある。

農村空間の商品化
高度経済成長以降、都市開発の拡大や農業就業者の減少により、近郊農業の持続は難しくなってきた。また、水田とともに農村景観を形成してきた里山も化学肥料の普及やエネルギー革命により利用されなくなり、アズマネザサが茂り荒廃化した。このような状況を改善するため、地域の特徴を活かした地域活性化の方法が模索され、農村空間の商品化が3つの柱に基づいて実施された。すなわち、1)美しい田園景観を保全しながら,土地,人を含めた農村資源の活用を図る。2)観光農業の推進などで農業の第三次産業を促し、農家の生活安定と地域での就業機会の増大に努め、地域の活性化を図る。3)新住民,学童等が,自然,農業,ルーラリティを体験することにより、健康で心豊かな人づくりに役立てるとともに、農村部と都市部との相互理解を深める。寺家地区における農村空間の商品化は1981年に農林水産省の自然活用型農村地域構造改善事業(神奈川県・緑の里整備事業)として支えられ、1984年に設立された寺家ふるさと村体験農業振興組合を担い手に進められた。結果として、寺家地区は農村における生態的基盤と経済的基盤、および社会的基盤を相互に関連させて、ルーラルツーリズム空間として持続している。

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