日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P710
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角度変動量によって異なる二方向流下の孤立砂丘発達
*谷口 圭輔遠藤 徳孝関口 秀雄
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抄録

 砂丘の形態は,フィールドに存在する移動可能な砂の量および風の流向変動量に依存して変化する(Wasson and Hyde, 1983).フィールド上に移動可能な砂が少なく,一部基盤が露出している,いわゆる貧砂状況においては,流れの一方向性の強さに応じて異なる種類の孤立砂丘が形成される.代表的な孤立砂丘としては,三日月型のクレスト(峰)を持つバルハン砂丘・直線的で長いクレストが特徴のセイフ(縦列)砂丘などがある.また,一般的ではないが,火星表面で初めて存在を指摘された涙型砂丘(円型のドーム状の地形に,一本の短い突部が存在する)も孤立砂丘の一種である.発達する孤立砂丘の形態は,流向変動量によって異なることが観測されている.バルハン砂丘は一方向性の強い流れ環境で見られ,セイフ砂丘は斜めに交差する二方向流の下で形成されることがTsoar (1983) で報告されている.涙型砂丘に関しても,数値シミュレーションにより,100° 程度のごく狭い範囲の角度変動量を持つ二方向流により形成が可能であることが示されている(Parteli and Herrman, 2007).
 本研究では,水槽実験の手法を用いて,なす角の異なる流向変動の下で,孤立地形の発達を観測し,二方向流の角度変動量の違いによる発達する地形の種類の変化を明らかにすることを目的とした.また変形の全過程を観察できるという水槽実験の利点を活かし,上記の地形発達の違いをもたらす変形プロセスについても考察を行った.
 0°~180° まで,15° 刻みで異なる角度変動量を持つ二方向流下で孤立砂丘地形の発達を調べる水槽実験を行い,なす角の増加とともに「バルハン地形」・「ドーム状地形」・「セイフ地形」・「反転型地形」の4種類の地形発達を見出した.同時に,それぞれの形成される角度変動量の範囲を明らかにした.バルハン地形は30° 以下の小さな流向変動量の場合に見られ,セイフ地形は 90°~ 135° の範囲の角度変動量を持つ二方向流によって形成された.両者の中間(なす角 45°~ 75° ) の条件の下では,ドーム状地形が形成され,なす角 150° 以上の試行では流れに直交する直線的なクレストを持つ反転型地形が発達した.ドーム状地形のうち,セイフ地形の境界付近の角度変動量(75°)の試行では,涙型砂丘のようにごく短い突部を持つ地形が発達した.
 クレストラインの変形プロセスには,共有タイプ・反転タイプ・独立タイプの3パターンがあり,上記の4種類の地形はこれらの組み合わせにより形成されることが分った.共有タイプは,流向変動の前後で同一のクレストラインが存在し続けるパターンで,角度変動量が小さい場合に見られる.一方,反転タイプでは,既存のクレストラインの位置を起点に逆向きのスリップフェイスが形成される.独立タイプは,流向変動時に既存のクレストラインの位置とは関係なく新規のクレストラインが形成されるパターンである.バルハン地形は共有タイプのプロセスによって,ドーム状地形は独立タイプのプロセスによって,反転型地形は反転タイプのプロセスによって形成された.セイフ型地形は,反転タイプ・独立タイプの変形が同時に起きることにより形成される.
 以上,二方向流の角度変動量は,クレストラインの変形プロセスの違いを引き起こし,発達する地形の種類を変化させていることが分かった.
文献
Parteli, E. J. R., and Herrmann, H. J. 2007. Saltation transport on Mars. Physical Review Letters 98 (19) : 198001
Tsoar, H. 1983. Dynamic Processes Acting On A Longitudinal (Seif) Sand Dune. Sedimentology 30(4) : 567-578
Wasson, R. J. and Hyde, R. 1983. Factors determining desert dune type. Nature 304 : 337-339

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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