日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P712
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山西・内蒙古地域の農牧境界地域の漢代遺跡分布と対応させる地形分類図
*阿子島 功
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抄録

 中国漢代の辺境地域であり農・牧境界領域における考古遺跡の立地特性を明らかにする目的で,縮尺精度の異なるいくつかの地形分類図を作成して、遺跡分布図の基図とし、また遺跡分布図と重ね合わせることによって遺跡の立地を検討した。
 この地域は,地形はモンコ゛ル高原,大青山脈,河套地域黄河氾濫原,オルドス沙地,黄土高原(低丘陵・台地),大同盆地などの盆地群からなり,年間降水量が200_mm~500mmと多様な自然条件からなり,漢代辺境地域として農牧が混在・指交する地域であった。城郭や墳墓の遺跡を主に対象とした分布調査に同行し,それらの立地条件を観察した。文献記述と古景観とを対応させて考察することを意図した地形分類図を作成した。
 今回の地形分類図の作成手法100m格子標高ファイル(USGS SRTM3)を用いて発生させた等高線間隔10m・20mの地形図を基に、傾斜・起伏によって次の5区分を行い,くくり線を手作業で記入し,色分けとした; (1)高原のなかの小起伏波状面, (2) 高原のなかの谷底面, (3) 大起伏・急傾斜地、(4) 盆地のなかの台地・扇状地(一部にオルドスの沙地を含む。 沙地を付加記号扱い(4’)とすべきか),(5) 盆地のなかの氾濫原低地
    地形分類にあたっては、人工衛星画像、ロシア作成の1:100,000地形図等の植生・土地利用・地割などを参考とした。 ロシア製1:100,000地形図を基図として描いた地形分類図と比較したところ,面的精度は変わらず、むしろ扇状地面と氾濫原面との区分にあたっては傾斜の違いを読み易いなどの利点もあることがわかった。
縮尺1:200,000~1:500,000程度の出力図によって、等高線間隔20m地形図は谷筋の抽出表現に適しているため交通路との検討に用いることができ、同じく等高線間隔10m地形図は微地形の表現に適しているため、遺跡立地との検討に用いることができた。これらの手法はDEMの利用によって可能になった。
[地形分類図の先行資料]  従来の地形分類図は、高等学校教学参考用中国自然地理図集(地図出版社1984)および鼠疫与環境図集(科学出版社2000)にある。今回の地形区分に関して、前者(原図縮尺 1:9,000,000)では、沖積平原、洪積平原、侵蝕性黄土丘陵(梁・嶺)、砂丘におおわれた平原などの区分、後者(原図縮尺 1:12,000,000)では沖積平原と台地、洪積平原と台地、侵蝕平原と台地、付加記号として沙漠、ゴビ(弋壁)がある。今回提示する地形分類図の区分の原則は基本的には従来の分類図と変わらないけれども、図上の図示精度が異なり、先行資料は概念図の表現である。今回提示する地形分類図は個別遺跡の立地を論ずることができる。
 [地形分類図から想定・判読される土地条件] 前記の5区分ごとに次のような土地利用上の特徴を予想できる。
(1)(2) 高原面は、乾いた高原面とやや水分条件のよい谷底面とに分けられ、それぞれ草の生育が異なること。耕作地は谷底面ではなく、乾いた高原面(故城内でも)で行われるが、その耕作は非永続的であろう。
(3)大起伏・急傾斜地は、露岩斜面で、北向き斜面にのみ植生が偏在している。半乾燥地の特徴である非対称植生分布は,外モンコ゛ルでは400-mmで,この地域では降水量500+mm程度で現れる。
(4) オルドスの台地・小起伏丘陵地は、沙地と草原とが混在している。この部分がもともと林地であったかは疑問である。大地の開析谷斜面・谷底面に植生があることから、狭い谷底面は可耕地といえる。 黄河両岸の黄土台地は、傾斜地で天水による(旱田)梯田耕作が行われている。年間降水量400mm程度であり、日陰斜面のみに貧弱な林地ができている地域である。
(5) 黄河沿いの河谷平原と山西の盆地群では、(新旧)扇状地面と河川氾濫原面に区分される。扇状地面は本来は草地もしくは林地であろう。 河川氾濫原面は、水分条件がよいことから草地・耕地のいずれにもなる。
 本報告は科研費(基盤(C)による「漢代北方境界領域における地域動態の研究(代表者国立歴史民俗博物館 上野祥史)」の一部であり,現地調査は宋建忠(山西省考古研),王銀田(曁南大)と共同,上野祥史と大川裕子が漢代城郭・交通路の集成図作成を行い,上野が現地調査,遺物集成にもとづいて城郭と墓葬について,大川(学習院大 日本学術振興会特別研究員)が史料より漢代普北地域の県・防衛線・交通路を,杉本憲司(仏教大)が史料より地勢に応じた郡県規模について考察した。

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