日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P722
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学校における防災教育の現状と課題
山形県の学校アンケート調査より
*村山 良之八木 浩司
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抄録

 阪神・淡路大震災以降,防災教育の必要性がとくに指摘されるようになり,様々な取り組みがなされている。本発表は,山形県内の学校へのアンケート調査から,学校における防災教育の現状を分析し,学校における防災教育の課題を明らかにする。そしてそれをふまえた学校における防災教育実践のあり方について検討する。  ここで対象とする山形県は,1964年新潟地震,1967年羽越豪雨災害等の経験はあるものの,立て続けに地震災害を経験している新潟県と宮城県に隣接しながら,近年は大きな自然災害の経験に乏しい。 山形県の学校における防災教育の実態調査  2008年1月,山形県内の小中高校の防災担当者に対して,防災(および一部学校安全)教育に関するアンケート調査を実施した。市町村・県教委経由,または直接郵送で配布,回収は全て直接郵送による。国立・私立小中学校および各種分校は対象としない。他に校種不明の回収が18校あるが,分析から除いた。調査期間は1月中であるが,3月まで返送があった。 防災教育の現状と課題  アンケートでは,防災教育を便宜上「避難訓練等」と「それ以外(教科教育や特別活動等)」に分けて質問した。ここでは,後者のみの結果について,校種別のクロス集計をもとに検討する。  まず,教科教育や特別活動等での防災教育は,小学校ではそのほとんどで実施しているのに対して,中学校ではその割合が下がり,高校では半数以下となる。小学校では,特別活動で行っているものがほとんどで,副読本を用いたり学外講師による指導が多くを占める。中高では,学外講師による指導の他,応急処置の指導もなされている。ただし,それらに要する時間数をみると,小中高とも,約2/3は3時間以内であり,ごくわずかに10時間を超えて実施している学校があるにすぎない(小中高,各6,1,1校)。  教科教育や特別活動等で防災教育を実施していない理由としては,小中高ともに時間が取れないことが挙げられている。このことは,防災教育を実施するにあたっての(全般的)課題としても幅広く指摘されている。次いで,教職員の研修がない/少ないこと,適切な教材がないことが,校種による差を孕みつつも多く指摘されている。 学校における防災教育の充実に向けて  以上の結果は,発表者らが仙台市内の小中高校で実施した同様のアンケート調査ともかなり共通する。しかし,宮城県沖地震が切迫する仙台市に比べて,防災教育そのものへの関心が低い傾向は否定できない。たとえば,防災教育において「特に課題はない」とする割合は,山形県の方がずっと大きい。ただし全体としては,防災教育が必要との認識はあるものの,時間が取れないことや教職員の研修不足・教材不備のためにできないでいるという傾向が捉えられた。  リスクコミュニケーションの考え方をふまえた防災ワークショップの実施が近年広がりつつあり,その効果も期待されるが,その実施時間の確保,そのマニュアル整備や教職員の研修等が求められる。そのための仕組みづくりを含めて,取り組むべき課題が(改めて)明らかになった。

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