日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 303
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三重県国束山周辺における過去100年間の植生復原
*工藤 邦史
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抄録

日本の森林はその大部分が人手の加わった二次林または人工林で構成されている.近年森林の多面的機能が注目されている中で,どのように現在の森林が変化してきたのかという点に着目し,加えて人との関係を含めた検討が重要である.国内においては山地の植生や土地利用変化の研究の多くが落葉広葉樹林帯地域で行なわれており,戦前における山地の草地利用や,戦後の薪炭林放棄に伴う植生遷移の進行,針葉樹の拡大造林といった現象が指摘されている.ところが常緑広葉樹林帯に属する地域での植生変化について考察した例は少ない.そこで常緑広葉樹林帯にあたる三重県度会郡国束山周辺での過去およそ100年間について,植生と土地利用の変化を復原した.復原に当たっては主に地形図・植生図・空中写真を用い,GISで扱えるように写真判読結果や地図をデータ化した上でその時系列上での変化を考察した.植生に着目すると,現在の広葉樹林の植生は以下の3パターンに分類され,それぞれの成立過程も異なる.1.落葉広葉樹が主体の植生;戦後にアカマツが植林され,現在は松枯れにより落葉広葉樹に置き換わっている.2.常緑・落葉広葉樹の混交林;1892年に最初の地形図が刊行された時点で広葉樹林が広がっていた地域に分布している.3.常緑広葉樹が主体の植生;常緑広葉樹のまま現在に至った森林はほとんどなく,大抵は戦後の時点でマツと広葉樹の混交林であり,萌芽再生したシイ・カシが林冠を占めて形成された.通常は長年人手が影響しないことで,常緑広葉樹が主体の森林になる.しかし,対象地域では人々が薪炭生産による樹種を選択した利用により,常緑広葉樹主体の森林が成立した.時系列地理情報を用いることで,過去についても植生や土地利用の空間配置を知ることができる.そして結果として常緑広葉樹林帯の山地での植生変化について,面的な配置で捉えることができ,その特徴を掴むことができた.また植生の変化に対して影響を及ぼした人為活動は,草地利用や薪炭生産及び拡大造林が主である.これらの活動・社会背景は国束山周辺独特のものではなく,全国的に生じたものであり,したがって植生変化についても類似の現象が他地域で生じている可能性が示唆される.

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