日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 306
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フィリピン・中部ルソン丘陵地における草地の水文特性
ヴィラ・ボアド集水域の事例
*森島 済
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抄録

 フィリピンの山岳・丘陵地には森林伐採とその後の過度な土地利用を背景として、草本で覆われた景観が数多く見受けられる。研究対象地である中部ルソン地域ヌエバエシハ州のヴィラ・ボアドもまた草本で覆われた丘陵地に位置している。ここでは、乾季の農業生産拡大を目的として、ため池灌漑施設が導入された。しかしながら、エルニーニョ現象に伴う渇水と農地への過剰な水供給によりため池が干上がることがしばしば生じ、安定した農業生産を行うに至っていない。短期的な農業生産の安定化には、水資源量に影響を与える要素の情報を集積し、それらの関係性や変動を踏まえ、適正な流域及び水資源管理を行うことが課題となっている。また、長期的視点から、安定した水資源管理の方策を構築するためには、集水域の土地利用・土地被覆と集水の関係を明らかにし、適切な流域環境の整備を行う必要があると考えられる。流域内を覆う草本(コゴン: Imperata cylindrica)が、降水量、土壌水分量などの水文要素に対してどの様な影響を与えるのか明らかにするために、降水量、土壌水分量、表面流出量観測をおこなった。また、比較のために同様の観測を流域内の小規模林地で行った。これらの観測結果からコゴンで覆われた土地の水文特性を検討した。 図1にコゴン内外の降水量散布図を示した。それぞれの点を月番で示される。これらの関係はほぼ比例関係になっているが、6月に大きな外れ値を持っている。これは、後述するようにコゴンの刈り入れ期が5月にあり、その後に野焼きを行うため、コゴンが十分に生育していないことに理由の1つがあると考えられる。こうした外れ値を含むもののこれら日降水量の間には強い相関関係(r=0.96)があり、コゴン内正味降水量(y)と降水量(x)の間には、y=0.78x+0.1(mm)という関係が想定される。切片を0とした場合にも、傾きは0.78となり、日雨量比較から求められる遮断蒸発量は22_%_程度と考えられる。 雨季の間の土壌水分プロファイルは、林内・草地内で異なった傾向を示した。草地内では20cmで最も乾燥し、30cmで最も湿潤な状況を示す。一方、林内では10cmから30cmにかけて徐々に土壌水分量が増加し、30cm以深で等湿な状況を示す。草地内での20cmを中心とした乾燥は、コゴンの根茎がおよそ20cm深で水平に発達していることが確認されている。このことは、コゴンによる20cm付近からの土壌水吸収が行われていることを示しており、この結果として20cm付近での乾燥が生じている可能性を示している。

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