日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 308
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モンゴル国・トーレ河上流部における降水特性
*遠藤 伸彦杉浦 幸之助門田 勤大畑 哲夫
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抄録
1.はじめに モンゴル国の人口の約3分の1が首都ウランバートルに集中している.ウランバートルの唯一の水源はウランバートル市内を貫流するトーレ河であるため,トーレ河流域における降水量・降水特性を把握することはウランバートルの水資源評価の基礎資料として重要である.地球観測衛星に基づく高時間・高空間分解能グリッド降水量データの降水特性を地上雨量計網によって評価し,実利用可能性を検討する. 2.データ 地球観測衛星に搭載されたマイクロ波放射計および赤外放射計に基づく高時間・高空間分解能グリッド降水量データである,TRMM 3B42/3B42RT,CMORPH,PERSIANN,GSMaP MWRを検討の対象とした.JAMSTEC/IORGCは,2003年より,トーレ川流域に雨量計を設置し,暖候期の降水量観測を実施してきた.IORGC雨量計網によるデータならびにモンゴル国Institute of Meteorlogy and Hydrologyの官署データを基準データとする.検討対象期間は2003年~2006年の6月から8月である. なお,雨量計の地点数は年によって異なる. 3.降水量・降水日数 各グリッド降水量データから雨量計の座標に対応するデータを抽出し,月降水量・三ヶ月降水量を算出した.また日降水量が0.1mm以上である日を「降水日」と定義し,三ヶ月間の降水日数を数えた. 図1(左)に降水日数の散布図を示す.3B42・3B42RT・GSMaPは雨量計と相関が高い.だが,3B42/GSMaPとも降水日数を過小評価している.CMORPH・PERSIANNは各年・各観測地点で,降水日数はほぼ一様(CMORPHは約60~80日,PERSIANNは40~60日)であり,高空間分解能とはいえ現実的にはかなり大きなスケールの降水システムしか解像していないことを示唆している. 三ヶ月降水量の比較を図1右に示す. CMORPHは降水量の過大評価が著しく(図の範囲外),PERSIANNは常に約200mm/3monである.3B42/GSMaPは雨量計と同様の雨量を示すが,相関は低い.相関が低い理由としては,衛星に基づくデータのもつ不確実性もあるが,雨量計の空間代表性や雨量計の観測特性(例えば強風時の過小評価)も考慮する必要性がある.どのような降水システムが卓越したときに,降水量が過大評価/過小評価になるのかを,今後検討する. 4.降水の高度依存性 トーレ河上流域を含む105.5-108.5E/47-49Nの領域内すべてのグリッドにおける4年間の夏三ヶ月の平均降雨強度を各高度帯別に求めた(図2).なお標高はSRTM30を0.25度格子に平均して求めた.3B42/GSMaPは雨量計と同様に,標高1200m以高で降水量が増加し,標高2000m以上の山頂部で減少する傾向が再現されている.一方,標高1200m以下で降水量が増加するのは標高が低い領域北西部で気候学的に降水量が多いためである.比較のために雨量計に基づくAPHRODETEデータの1980年~2002年の夏三ヶ月平均降水量の高度分布も示す.このデータはPRISMによる気候値を参照しているが,降水量が高度に伴って増加するという傾向は弱い. 5.まとめ 地球観測衛星に基づく高時間・高空間分解能グリッド降水量データを,地上雨量計網と比較した.3B42/GSMaPは,降水量の高度依存性が再現され,降水日数が過小評価だが,トーレ河上流部における降水特性を相対的に良い精度で評価していると考えられる.一方で,CMORPHとPERSIANNは地上観測と全く異なる降水特性を示すことが明らかとなった.
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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