日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 314
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都市化影響や周辺土地利用とその変化を考慮した日本の農耕地を代表できる気象観測点の選定
*西森 基貴桑形 恒男石郷岡 康史村上 雅則
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抄録
1.はじめに  我々は日本と中国において,地球温暖化の農業影響を正しく評価するために,気象データに含まれる都市化など人工的な影響を除去し,農耕地における気温変化傾向を把握する試みを続けている(日本については2007年春p158および秋p97)。ここでは数多い気象観測点について,なるべく一律な方法で,農耕地にある地点を抽出,逆に言って都市気候の影響を受ける地点を抽出する場合の指標として,何を用いるのかが重要となる。同種の試みは最近でも行われており,藤部(2007年春p157)は観測点周辺の人口を,丸山ら(2006:九州の農業気象)は,衛星画像から見た周辺の土地利用を指標としている。  日本においては国土数値情報が整備され,1km以下のスケールで非常に質の高い気象観測点周辺の土地利用状況が得られる。そこで本研究では,この国土数値情報を用い,観測所周辺の土地利用を考慮して,都市部/農村部の区分を行い,その気温変化傾向の比較・相違から,現在用いられてる気温観測データに含まれる都市影響を詳細に評価した上で,農耕地における近年の気象環境変動の地域・季節別の特徴を明らかにすることを目的とする。 2.データと解析方法  国土数値情報における,1976,87,91,97年時点の3次メッシュ単位の土地利用分布を用いた。農耕地は水田+畑地の面積割合とし,都市としては建物+幹線道路を基本とした上で,「その他の土地利用」を加えるかどうかは別に議論する。また地上気温解析に用いたデータは,気象庁による気象官署・アメダスデータで,解析期間は1980-2006年とする。ここで2003年以降の最高最低気温は,気象庁では10分ごとの観測データを用いて算出しているが,統計の連続性の観点から,1時間値から新たに算出し直したものを用いた。なお解析手法は前報と同じく,線形トレンド解析を中心とした。 3.結果と考察 まず1997年時点の土地利用で農耕地面積割合が多い約200地点の候補を抽出し,観測点の移動がない,気温トレンドから都市の影響を受けていない,などを基準に,現段階で40地点を選出した(図1)。図2にはその40地点を,北・東・西日本のそれぞれ太平洋側・日本海側に,計6区分した地域平均気温の月別線形トレンド値の一部を示す。最高気温は,2月日本全域と9-10月の東西日本および7月東日本で昇温が大きい。いっぽうで北日本では12月の降温と,8月太平洋側(図2上)および5月日本海側の昇温なしが目立っている。最低気温は,秋口の日本全域と5月の北日本太平洋側で昇温が目立つほか,最高気温と同じく北日本の12月,西日本日本海側の3月,北・東日本日本海側の8月で昇温が小さい(図2下)。今回の解析では前報と比べても,特に秋の昇温が北日本の最高気温を除いて大きく,近年における秋の残暑の厳しさがより強調された結果となった。  なお国土数値情報で用いる年代毎の土地利用とその変化が,どのように都市気候や農耕地気象環境に影響するのかについては,さらに検討した上で報告する。
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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