日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 313
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移流を伴わない平坦地における日射と気温の日変化位相差の形成メカニズムに関する一考察
*中川 清隆渡来 靖細矢 明日佳
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抄録
_I_.はじめに
 日射は太陽南中時に最大となるが、日最高気温起時は太陽南中時刻より遅れることが知られており、daily air temperature lagと呼ばれる。日射の日変化が正弦曲線で表される場合の気温の位相差の解析解について検討したので、その結果の概要を報告する。

_II_.地表面熱収支式とその解析解
 日射浸透限界深度を層厚とする薄層を地表層とし、密度ρ0=1.60×103kg/m3、比熱c0=8.90×102 J/kg/K、熱拡散係数κ0=0.18×10-6m2/s、層厚δz=0.01mとする。地表面入射日射フラックス密度および地表層温度が、それぞれ、

I=I*+δIsin(ωt+φ) および T0=T*+δT0sin(ωt)

で表されるとすると、地表層の熱収支式は、

c0ρ0δzωδT0cos(ωt)=(1-α){I*+δIsin(ωt+φ)}+(εa-1)σ{T*4+4T*3δT0sin(ωt)}-{caρa(ωκa)0.5+c0ρ0(ωκ0)0.5}δT0sin(ωt+π/4)

で与えられる。ここで、φ;日射と地上気温の日変化位相差、t;時間、ω;地球の回転角速度(=7.292×10-5rad/s)、I*;日平日射フラックス密度、T*;日平均温度、δI;日射フラックス密度振幅(=I*=(1-εa)σT*4/(1-α))、δT0;地表面温度振幅、ρa;空気の密度(=1.2kg/m3)、ca;空気の比熱(=103J/kg/K)、σ;ステファンボルツマン定数(=5.67×10-8Wm-2K-4)、α;地表面アルベド(=0.3)、εa;大気の見かけの射出率(=0.61)である。κaは空気の熱拡散係数であり、

κa=0.42×0.75u/ln(1.5/z0)+0.84×10-4

とする。ここで、u;地表面1.5m高度風速、z0;粗度高(=0.01m)である。この熱収支式から、日射と地上気温の日変化の位相差の解析解として、

tan-1([ωc0ρ0δz +{ρacaaω/2)0.50c00ω/2)0.5}]/[4(1-εa)σT*3+{ρacaaω/2)0.50c00ω/2)0.5}])+1.5(ω/2κa)0.5

が得られる。この解は2項から成っており、第1項が日射と地表面温度の位相差φを表し、第2項が地表面温度と地上気温の位相差を表す。気温位相差は、日射量や温度の日較差には依存しないが、日平均温度および風速に依存する。地表面温度の振幅δT0と日射量の振幅δIの間には

δT0=(1-α)δIcosφ/{4(1-εa)σT*3acaaω/2)0.50c0(κ0ω/2)0.5}

が成り立ち、δIはT*で決まるので、T*およびuが与えられればδT0および熱収支各項の値は総て決定できる。

_III_. daily air temperature lagの見積もり
 T*=288K、u=1m/sを与えた場合の計算結果を図示する(図省略)。δT0は16.84K、地表面温度位相差は2.68時間、地上気温位相差は2.90時間である。地表面温度に比べて、地表層熱貯留変化の位相が6時間早く、地中熱伝導や顕熱輸送の位相が3時間早く、日射吸収量の位相が2.68時間早く、正味長波放射は完全に同位相である。風速のみをu=0.1m/sに減ずると、δT0および両位相差は15.82K、2.73時間、3.25時間になり、更にその状態で平均温度をT*=273Kに減ずると、それらは19.00K、2.64時間、3.34時間となり、低温低速になるほど、気温位相差が大きくなる。
正弦曲線に従う日射日変化は太陽北中時以外は常に日射があるなど非現実的であるが、ドライで移流が存在しない場合の地表面付近の温熱環境の特徴は良く理解できる。
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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