抄録
1.はじめに
「平成の大合併」と呼ばれる全国的な市町村合併の動きも,2005年度末の旧市町村合併特例法に基づく優遇措置の適用終了以後,一部で合併協議が進められているものの,落ち着きを見せてきている。初期の合併事例では,既に合併から5年程度が経過しており,激変緩和を目的とした特例的な行政体制から,新たな段階に移行する市町村も増加している。
報告者は,これまでに岡山県の事例や中核市・特例市の動向をもとに,合併後の市町村における地域行政・地域自治の状況について報告を行ってきた。今回の報告では,うつのみや市政研究センターが合併市町村に対して実施したアンケート調査をもとに,「平成の大合併」直後の市町村における地域行政・地域自治の動向について整理する。
2.アンケート調査の概要
アンケート調査は,2006年8月~9月に実施し,1999年度から調査実施時までに市町村合併を行った558市町村に調査票を送付した。このうち,391市町村から回答があり,回収率は70.1%であった。複数回の合併を実施した市町村も含むため,413の合併事例についての回答を得た。
アンケートは,1)合併の特徴,2)新市町村建設計画,3)地域自治組織等・地域内分権,4)合併のメリット・デメリットに関する設問で構成されており,今回の報告ではこのうちの3)に係る回答を中心に取り上げる。
3.地域行政機関について
(1)庁舎の位置づけ
合併前の市町村役場の庁舎は,本庁舎となったものを除いて,地域行政機関あるいは本庁機能の一部が配置される分庁舎などとなっており,庁舎が廃止された事例は1例のみである。また,地域行政機関となった庁舎は,約4分の3が「地方自治法上の支所」と位置づけられている(いずれも合併時の状況)。
(2)長の位置づけ・権限
地域行政機関の長は,約46%で「部制下の部長級」(191)となっている。工事関連の予算執行に係る専決権を指標としてその権限をみると,長設置市町村の7割で専決権ありとなっている。しかしながら,その金額は5万円から1億円まで大きな差異が生じている。
(3)予算要求権
地域行政機関の予算要求は,分庁方式等を除いた約85%(317)で認められている。その半数以上の165事例では,ルーティン業務に加えて,ソフト・ハード事業の要求も認められるなど,幅広い権限が付与されている。ただし,要求方式などの変更が実施されている市町村も多く,その扱いについてはまだ試行錯誤の段階にあると考えられる。
4.地域自治組織・地域別附属機関について
(1)設置の動向
最も多い回答は「設置なし」(172)で,設置されている組織は「地域審議会」(159)が中心である。設置区域は新市町村の全域と一部区域でそれほど差がなく,設置期間は8割以上で期限ありとなっている。このうち,新市町村建設計画の期間とあわせた10年台が約半数(126)を占めており,これらの組織設置は合併に伴う特例措置という傾向が強い。
(2)設置の長所と課題
自由記述の回答を整理すると,設置の長所は「住民意見の聴取・集約・反映」(98)が最も多く,広域化が進展した市町村からすると「地域課題・実情の把握」(32)が容易になる点も長所と感じられている。一方の課題としては,行政の関与の度合いや諮問を行わない場合の活動内容といった「運営手法をめぐる課題」(75),議会・各種地域団体との関係に代表される「地域自治組織等の権限・役割分担をめぐる課題」(35)などが挙げられている。
5.おわりに
「平成の大合併」後の市町村では,支所等の地域行政機関は,体制や長の権限等からみる限り,ある程度の規模が確保されている。ただし,この点については課題も多く認識されており,これからの支所再編等の動向が注目される。
地域別附属機関・地域自治組織については,その権能や役割に期待しつつも,運用に苦心する設置市町村の実情がみてとれる。今後は,制度の確立とともに,実効性のある活動の実現に向けた工夫が求められるものと考えられよう。
今回の報告はアンケートの単純集計の結果が中心であり,今後は,合併市町村の地域特性と関連させた分析を進めるとともに,変化の著しい地域行政機関の組織再編や地域自治の制度・運用実態などについて,随時追跡調査を進めていくこととしたい。