抄録
_I_ はじめに
現在,企業や地域におけるイノベーションや知識創造の議論において,トリプルへリックスアプローチにみられるように,産・学・公(官)の連携が重要な施策として考えられている.
そこで本研究では産学公連携の事例として,経済産業省が実施している「地域新生コンソーシアム研究開発事業」を取り上げ,研究開発ネットワークの成長・進化と,その成果に関する計量的な分析を行う.その際には,社会ネットワーク分析を用いて,各アクターの特性別にネットワーク統計量を算出し,構造的位置と研究開発ネットワークが有する特徴を明らかにする.
_II_ 分析データと分析手法
本研究では2001年度から2007年度までの地域新生コンソーシアム研究開発事業の採択プロジェクトを分析対象とする.そして,研究開発に参加しているアクターの大規模ネットワークデータを構築し,共同研究テーマを介した組織間ネットワークを分析していく.
この地域新生コンソーシアム研究開発事業では,「事業化に直結する実用化技術開発の促進」を重要な目的として挙げている.そこで,事業化に関するデータが入手可能である2001年度から2004年度までの採択プロジェクトの中から,既に事業化に成功しているものを抽出し,研究開発
ネットワークのパフォーマンスを表す指標として用いる.
さらに,各アクターの研究開発拠点の位置を調査し,ライフサイエンスやナノテクノロジー,材料・プロセスなどといった分野別の研究開発ネットワークの地理的な拡がりの違いについて考察する(図1).
_III_ 分析結果
ネットワーク全体の統計量の変化をみていくと,平均次数中心性は増加傾向にあった.また,2007年度には2810の参加アクターのうち,2711ものアクターが直接的もしくは間接的に結合し,巨大なコンポーネントが形成されていることを確認できた.
ネットワークの成果に関して述べると,特に,一部の中心性が高い公的な研究支援機関や大学が参加している研究開発ネットワークほど,良いパフォーマンスを達成していることが明らかになった(図2).このような公的な研究支援機関や大学は,分析対象期間の間に中心性が際だって増加しており,研究開発ネットワークの累積的な成長に貢献していることが示唆される.