日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 502
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DEMの流路処理計算方法の違いが地形シミュレーションに与える影響
*田中 靖
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抄録
地形シミュレーションにおける流路構築アルゴリズム
 コンピュータによる地形のシミュレーションは,長期間にわたる地形の変化を理論的,定量的に検討するための数少ない検討方法の一つである.このような方法は,現実には遂行不可能な実験や検討を可能にし,地形を観察したり計測したりする際の目の付け所を具体的に教えてくれる.
 数値標高データ(DEM)を用いて地形変化のシミュレーションを行う研究 (Landscape evolution modeling, LEMs) は欧米では盛んに行われている.現在では例えば,SIBERIA (Willgoose et al, 1991),DELIM (Howard, 1994),GOLEM (Tucker & Slingerland, 1994),CHILD (Tucker et al., 2001),CASCADE (Braun & Sambridge, 1997) といったコンピュータシミュレーションプログラムが地形学者の間で共有され,研究の発展に寄与している.また日本でも,例えば野上(2008)に代表されるような研究の積み重ねがある.しかしこれらの骨格となっている地形変化に関する基本的な理論は,いずれも共通したものと考えてよく,違いはその考え方をコンピュータ上で実現する方法であると言っても過言ではない.
 地形変化を表現する微分方程式の重要な項の一つは,流水による地形変化である.実際のシミュレーションにおいては,DEMから流路網を構築し,それに基づいてそれぞれのピクセルの流域面積と勾配などから,その地点における土砂フラックスを算出して地形を変化させている.したがってここで,どのシミュレーションモデルにおいてもDEMから流路を構築するプログラムを動かしていることになる. D∞アルゴリズムの紹介と高解像度DEMを用いた地形シミュレーションの検討例>
 DEMから流路網を構築するアルゴリズムは,簡単に言えば下向き方向の最大傾斜方向をつなぐ方法(最大傾斜法)が広く用いられている.この方法によるシミュレーションでは, 50m程度の解像度のDEMを用いて日本の河川流域スケールで検討を行った場合にはそれほど大きな問題は生じないが,これをLiDARで取得したような数mの解像度を持つDEMで同様のシミュレーションを行うと,不自然に直線的な谷が多く出現し,また,山地上流域の流域地形が「あり得ない」形になる等の問題が生じる.この現象の原因を現場での現象に置き換えて考えてみると,地表流や表層地下水は最大傾斜方向にのみ流れているのではなく,その場所より低い所に関してはどこへでも流れる可能性があることに気付く.すなわちこのような不自然な結果は,流路処理計算方法に起因している.
 この点を考慮して考えられた流路処理計算方法の一つが,D∞ (Tarboton, 1997)である.下の図に,この論文で示された考え方を参考に開発した流路構築アルゴリズムでの結果を示す.流路の幅や屈曲の度合いなど,現実の感覚に近い結果であることが分かる.この方法を組み込んだ「地形シミュレータ」による一定時間後の変化した地形は,最大傾斜法を用いた結果よりも妥当なものであると感じている.発表当日は,実際のシミュレーションの結果を示しながら,流路処理計算方法の違いが地形シミュレーションに与える影響について議論したい.

文献 Willgoose et al., 1991. Water Resource Research, 27, 1671-1684. Howard 1994. Water Resource Research, 30, 2261-2285.
Tucker & Slingerland 1994. Journal of Geophysical Research – Solid Earth, 99, 12229-12243.
Tucker et al., 2001. Computer and Geoscience, 27, 959-973.
Braun & Sambridge 1997. Basin Research, 9, 27-52.
野上 2008. 地理学評論, 81, 121-126.
Tarboton 1997. Water Resource Research, 33, 309-319.
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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