日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 601
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農業法人におけるインターネット通信販売
*池田 真志
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抄録
1.研究の目的
 平成19年商業統計の速報値によると,通信・カタログ販売の市場は約4兆円であり,通信販売の市場規模は年々増加し続けている。
 農産物流通においては,有機農産物宅配企業などによる通信販売が存在する が,これは産地や生産者との間に専門流通業者が介在する形態である。他方で,産地や生産者が直接消費者に通信販売を行う形態も存在する。こうした産地や生産者による通信販売は,これまで電話やファックス,はがきなどによって受発注が行われていたが,近年,インターネットモールに出店したり,独自のウェブサイトを開設することによって,インターネットによる通信販売(以下,ネット通販)を行う産地・生産者が増加している。
 以上のような農産物のネット通販は産地・生産者にとってどのような可能性を持っているのだろうか。こうした問題意識に基づいて,本発表では,農業法人における農産物ネット通販の現状と可能性を検討する。そのために,2008年6月に(社)日本農業法人協会に加盟している全国1,710社の農業法人に対してアンケート調査を実施し,619 社から回答を得た(2008年7月18日現在,有効回答率36.2%)。

2.農業法人におけるネット通販導入状況
 アンケート回答企業の中で通信販売を実施している農業法人は約37%(299社)であり,さらにネット通販を実施している農業法人は19.6%(137社)である。つまり,通信販売を実施している農業法人の59.8%がネット通販を導入している。とりわけ,2000年代に入ってからネット通販を導入する農業法人が急増している(図)。
 ネット通販を導入している農業法人のうち,78.6%がネット通販を開始する前から通信販売を実施していた。すなわち,従来から通信販売を実施していた農業法人が,追加的な受注手段や広告手段としてインターネットを利用する傾向がみられる。「時代の流れ」や「流行」,「業者や知人の勧め」などによって販路拡大のためにネット通販を導入する農業法人が増加しているが,ほとんどの農業法人(92.3%)にとってのネット通販は「補助的な販売形態」であり,主要な販売形態とはなっていない。

3.ネット通販導入の影響
 ネット通販は農業法人に対して「顧客の増加」(69%)や「顧客の地理的範囲の拡大」(56.3%)などの影響をもたらしているが,「利益の増加」につながった農業法人は17%程度である。他方で,技術的な問題や個別消費者への対応作業が増加するなど,農産物ネット通販拡大の阻害要因も存在している。

付記
 本研究には,国土地理協会平成19年度学術研究助成「情報化社会における新たな農産物流通システムと農村振興に関する地理学的研究」(研究代表者 梶田真,研究分担者 池田真志)を使用した。また,アンケート調査にあたっては,(社)日本農業法人協会の協力を得た。
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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