抄録
I.はじめに
雲仙普賢岳の火山活動は,それに伴う諸現象を空中写真計測により時系列的に図化・測量できた初めての事例であると言われており,長岡ほか(1992)は空中写真計測により溶岩の噴出量の経年変化を算出した.近年では,航空レーザー測量によって計測した3次元位置データからDEMを作成し,溶岩ドーム周辺の地形変化を定量的に計測した研究も行われた(佐藤,2004).しかし,空中写真からDEMを作成には専門的な技術が必要であり,航空レーザー測量は精密なDEMを作成できる半面,大規模な設備が必要である.そこで研究では,地形図と最近一般に普及が見込まれるGISソフトを用いて,簡単に数値標高データを作成し,雲仙普賢岳周辺の地形解析,特に堆積物の経年変化を定量的に解析した.
II.研究方法
1.研究対象地域:図1に示す.今回は溶岩ドーム付近-水無川上流-中流域を中心に解析を行った.
2.使用地形図:今回解析に用いた地形図は,2005年測量1/2500地形図,1995年及び1993年測量1/5000地形図である.これらの地形図をスキャンし,画像データ(TIF)として解析に用いた.
3.GISを用いた解析方法:使用したGISソフトはArcView9.1である. はじめに,3つの年代の地形図それぞれについて,標高10m毎に等高線のトレースを行い,標高を持ったラインデータを作成した.なお,等高線のラインデータはArcScanにより自動的に生成し,標高値は作業者がラインデータ(等高線)に数値を入力した.このラインデータに標高データを持たせる作業は多少時間がかかり,図1の範囲につき約8時間の時間を要した.次に,ラインデータをジオメトリ変換ツールでポイントデータに変換し,ラインの構成点をそれぞれ標高を持った独立したポイントに変換した.このポイントはラインデータから生成するという性格上,場所により分布の粗密がある.そこで,作成したポイントデータをNatural Neighbors法で内挿して標高ラスタデータを作成した.このラスタデータはセルサイズの1辺を10mで作成した.これにより,研究対象地域全域に10mグリッドで均一に分布する数値標高データを得た.
III.解析結果
研究対象地域の侵食量の時系列変化を検討するために,古い年代のラスタデータと新しい年代のラスタデータの差分を計算した.1995から1993を引いたラスタデータ(図2上)と2005年から1995年を引いたラスタデータ(図2中)の二つの差分ラスタデータを作成した.これらのデータは時間の経過による標高の変化を示す.堆積作用などによって標高が
高まったところではプラスの値を,侵食作用によって標高が低くなった
ところではマイナスの値を示す.
図2上を見てみると,93~95年間では,溶岩ドーム付近の標高上昇が顕著で,活発な火山活動がうかがえる.中流域では線状に標高が低下している場所があり,これはガリの発達を表していると考えられる.図2中では,火山活動の終息に従った溶岩ドーム付近の侵食が目立つ.侵食された体積が元の体積の何%になるのかを計算するために、標高ラスタデータの0m平面から上の体積を算出し、侵食量と比較してみると,1995年の標高ラスタデータの体積は1340792392.44㎥で,1995年から2005年の約7年間の侵食量は9175324.95㎥という値が得られた。
IV.まとめ
雲仙普賢岳周辺の,1993~2005年間の地形量変化を,地形図とGISを用いて解析した結果,地形(例えばガリ,溶岩ドーム等)が発達していく様子を定量的に視覚化でき,さらに侵食量も算出できた.今回は研究対象地域全域を一括して地形量の算出を行ったので,今後は侵食域,堆積域毎にその量が算出できるか検討する必要があると考えられる.
自然地理学の研究や教育の場面にGISが浸透するにあたり,このような簡便な地形解析の手法開発は今後重要性を増すだろう.
謝辞
本研究には,平成19年度科研費補助金(基盤研究(C))課題番号18500780「人工衛星データによる斜面特性の評価の詳細研究」(研究代表者 黒木貴一)の一部を利用した.
参考文献
長岡ほか(1992):雲仙岳1990~92年噴火の熔岩噴出量の計測.国土地理院時報,No.45,p.19-25.
佐藤(2004):活動終了後の雲仙普賢岳・溶岩ドーム周辺の地形変化.地形,25-1,p.1-22.
