日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 413
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アジアにおけるLCC(低コスト航空会社)ネットワークの発展と展望
欧米の事例と比較して
*田中 耕市
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抄録

I. はじめに
 航空輸送の発展に伴う輸送コストの低減化は,国際的な人・物資の流動量を増加させて,グローバリゼーションの原動力となった.全世界における航空輸送量は増加傾向にあり,2002年においては1,000億トンキロに及ぶ(日本航空協会「航空統計要覧」より).そのうち,約4割はアジアが占めており,将来的により増加することが見込まれている.しかしながら,1990年代以降,アジア通貨危機(1997年),アメリカ同時多発テロ(2001年)の余波,SARS(2003年)によって,アジアの航空業界は不安定である.そのようななか,2000年以降,アジアにおいてもLow Cost Carrier(低コスト航空会社)が増加して,そのネットワークを拡大させつつある.本研究は,欧米の事例と比較しつつ,アジアにおけるLCCの航空ネットワークの発展過程とその特性を考察して,将来的な展望を行いたい.

II.LCCのビジネスモデルの発展過程
 Low Cost Carrier(低コスト航空会社)とは,運営に必要な諸費用を抑えることによって,低価格運賃を顧客に提供する航空会社である.1973年にアメリカ合衆国のPacific Southwest Airlines(後にUS Airwaysによって吸収)によって,そのモデルは構築されて,Southwest Airlinesによって確立された(Dobruszkes, 2006).以後,1978年の航空規制緩和を追い風に,アメリカ合衆国では多くのLCCが就航した.一方,ヨーロッパにおいては,1995年にRyan Airが最初のLCCとして就航した.そして,1997年のEU域内の航空自由化を契機にLCCが急増した(Fan, 2006).それらの多くは,Southwest Airlinesをモデルとしたものであった.ヨーロッパにおけるLCCの乗客占有率は20%を占めると推定されている(ELFAA, 2004).1996年~2004年におけるヨーロッパ内の定期航空便の就航都市は40%増,都市間ペアは91%増であり,そのほとんどはLCCによるものである(Fan, 2006).低価格という魅力以外にもハブアンドスポーク型のネットワークを構築するFSC(Full Service Carrier)にはみられない,他都市への直行性が支持された結果である(Swan 2001).

III.アジアにおけるLCCの発展
 アジアに就航するLCCの創業時期は,欧米に比較すると遅い2000年以降であった.しかしながら,いくつかのLCCは,その所有便数や就航路線数を急速に増加させてきた.代表的なLCCは,Lion Air(Indonesia),Air Asia(Malaysia),Jetstar Airways(Australia)であり,その就航都市はいずれも30を超える.LCCとして操業するまでの経緯はそれぞれ異なっており,Lion Airが1999年にLCCとして設立されたのに対して,Air Asiaは1993年に設立されたFSCが経営不振から2001年にLCCとして再生された.そして,Jetstar AirwaysはQantas Airways Limitedが,やはりLCCであるVirgin Blueに対抗するために設立した子会社である.しかし,いずれにも共通している要因は,アジア通貨危機(1997年)に伴う既存の FSCの経営危機であった.
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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