抄録
1.研究目的
郊外住宅地を取り巻く環境が大きく変化し,多くの郊外住宅地において高齢化にともない人口減少に転じるであろうという危惧がなされている.このような中で,郊外住宅地がいかに持続していくのかは重要な問いである.都市内部の高齢化を扱った研究においても居住者の高齢化と非高齢人口の転出によって高齢化現象がおこるという指摘がなされており,高齢化現象は住宅購入後に世帯の滞留傾向が強い日本の住宅市場の特性ということもできよう.由井(1999)は,高齢化現象のおこりやすい日本の住宅市場の特性を踏まえ,居住者のソーシャルミックスを促すミックスディベメントによる開発への期待を述べている.また,福原(2005)は,高齢化現象の回避のためには住民による街づくりが必要であると指摘した.先行研究を踏まえ,本研究は,開発時期が長く多様な居住形態の混在する成田ニュータウンを事例として,居住形態別の居住者特性や居住者の居住経験,また自治会活動を明らかにし,郊外住宅地が持続しうる条件について考察することを目的とする.
2.調査方法
議論を始めるにあたって,郊外住宅地の持続性という概念の整理が必要である.“Our Common Future (1987)”における持続可能な開発の概念を踏まえると,人口が維持されることに加え,現在および将来の居住者の居住ニーズを満たす住宅地であることは重要な要素であると考える.
自治会連合会に加盟する自治会のうち,8つの自治会の役員にコミュニティ活動に関するインタビューを行った.居住者に対しては,ニュータウン内の4地区に合計440部のアンケートを配布し,96世帯(21.8%)からの回答を得た.回答者のうち20世帯に対してインタビュー調査を行い,居住経験や居住地選択に関してデータを収集した.
3.研究対象地域
本研究の対象地域である成田ニュータウンは千葉県成田市にあり,NT人口は約3.3万人,世帯数は約1.4万世帯である. 1968年に千葉県企業庁の新住宅市街地開発事業として全域が一体に整備された市街地で,1978年の成田国際空港開港に向けて1972年から入居が始まった.
4.結論
成田ニュータウンは,成田空港の発展に伴い開発が進行した.インフラ面や生活利便性は次第に改善し,空港からの税収で豊かな市の財政を背景に住環境の維持管理がなされたことで良好な住宅地が形成されてきた.空港関連産業に従事する世帯のニーズに合った,多様な住宅が継続的に供給された.社宅等に定期的に流入する世帯のニーズにあったアフォーダブルな分譲住宅から高級住宅街区まで多様な住まい方が選択できること,さらに自治会連合会の活動が居住環境を精神的,物質的に支えていることから,転入者の定住およびNT内での住み替えが容易に起こった.中古住宅への需要も高く,戸建住宅地区においても若年層の流入があった.第二世代との近居傾向のある地区もみられ,住宅タイプや供給時期による差異が顕著であった.
<参考文献>
由井義通 1999 『地理学におけるハウジング研究』 大明堂.
福原正弘 2005 『甦れニュータウン 公流による再生を求めて』 古今書院.