抄録
1. はじめに
高度経済成長期以降わが国では,都市への人口流入と経済的発展を背景として,都市とその周辺で多くの宅地開発が行われた。その全体像を理解するには,全国的な視点とともに,都道府県レベル,更には市町村レベルに至るミクロな視点も欠かせない。このようなマルチスケール的分析を可能にする情報源として,各都道府県が毎年行っている『土地利用動向調査』の成果品のひとつである『主要施設整備開発等調書』にある市町村別宅地開発事業の統計データに注目した。本研究の目的は,のべ16,629件(1981~2006年度)にのぼるこのデータをデータベース化し分析することにより,1980年以降の日本の都市開発の動向とその背景を明らかにすることである。
2. 研究方法
まず土地利用動向調査によって作成された『主要施設整備開発等調書』(1981~2006年度)における「新住宅市街地開発事業」のデータ(計564件),及び「その他の住宅団地造成事業」のデータ(計16,065件)を整理する。そのデータを基に(1)全国における新住宅市街地開発事業の時系列変化を分析し,事業件数及び造成面積の推移から大規模開発の動向を把握する。(2)一般住宅団地造成事業の動向を全国,地方,都道府県,市町村別に分析する。そして事業件数及び造成面積の推移と分布から中小規模開発の動向をスケール別に把握することによって,宅地開発の空間特性を議論する。(3)先行研究で行われた「土地区画整理事業」の分析結果と,本研究の分析結果を合わせて考察することにより,1980年度以降における都市開発の動向を明らかにする。
3. 研究結果
各事業の動向を分析した結果,以下の点が明らかとなった。
(1)新住宅市街地開発事業の造成面積は東京都,茨城県,大阪府,兵庫県に集中しており,それに対して愛知県では比較的造成面積が小さかった。(2)一般住宅団地造成事業の件数は1980~1988年度に減少,1989~1995年度に増加,そして1996~2005年度には再び減少に転じており,これら3期の違いが明瞭であった。(3)地方別に同事業総件数の推移をみると,全国では増加傾向にあったバブル期後半からバブル崩壊後数年間にかけて,各地方の総件数が上昇から減少に転じる時期に差が見られた。(4)47都道府県の中で2005年度までに同事業が完了した件数が多いのは,北海道,大阪府,神奈川県である。また3大都市圏の中心である東京都,愛知県,大阪府を比較すると,大阪府の件数が多く,東京都や愛知県は極端に少ない。(5)同事業および土地区画整理事業の経年相関図を用いることによって,宅地開発事業にバブル経済の影響がでるのに4~5年のタイムラグがあることが明らかとなった。