日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P808
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沖縄島における森林利用の変遷の解明に向けて
*増野 高司
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抄録
1.はじめに
 「やんばる(山原)」と呼ばれる沖縄島北部の森林には,イタジイ(Castanopsis cuspidate)を優占種とする常緑広葉樹林が広がる.ここには,沖縄に固有な生物をはじめ,多様な生物が生息し,近年それらの生物を含めた森林保全への意識が高まっている.このように豊かで希少な生物相をはぐくむ,やんばるの森であるが,原生的な森林は残っておらず,二次林が広がっている.
 これまでに,1960年代初めの国頭村における焼畑の観察事例が報告されている(佐々木,1972).また,やんばるにおける林業的な森林利用についての報告がなされている(中須賀編,1995).しかしながら,現在同地域において焼畑はすでに衰退し,林業的な森林利用も活発とはいえない状況となっている.
 本研究の目的は,このような,やんばるにおける森林利用の変遷を歴史的に解明することである.今回の本報告では,既存の研究を整理するとともに,若干の現地調査をもとに,今後の研究の展開を示したい.

2.調査地および調査方法
 調査対象は,沖縄島(沖縄本島)とした.特に森林が広がる北部(大宜味村,東村そして国頭村)の森林利用の変遷について調査を実施した.既存の文献を利用して森林利用について分析をおこなうとともに,西銘岳(国頭村)において,現地踏査および植生調査を実施した.また,森林利用の歴史的な側面について,聞き取り調査を実施した.

3.結果および考察
 文献調査の結果,やんばるの森は,家庭で利用される燃料が薪炭からガスに転換するまでの長い間,地域住民のみならず那覇をはじめとする人口高密地域への薪炭材の供給を担ってきたことが把握された.しかしながら,薪炭材の需要がなくなると,森林の利用方法が模索されるようになっている.林業的な活動もおこなわれているが成功していない.
 そのいっぽうで,1980年代になると,希少な野生動物保護の観点から森林保護への意識が高まった.そして1990年代末以降にはエコツーリズムによるやんばるの森の利用が始まっている.
 現地踏査では,炭焼きの跡地やそこに通じる踏み分け道が確認された.また林分調査の結果,胸高直径が50 cm未満の比較的林齢の若い個体とともに,胸高直径が60 cm を超える個体が散在する状況が明らかになった(図1).胸高直径が60 cm以上の個体には,大きな樹洞が確認された.これは,優良木の抜き切りが行なわれた結果,林業的な観点から不良木と考えられた個体が残されたたことによる可能性が考えられた.
 やんばるの森は地域住民によって長い間利用されてきたが,建材となる良木の減少と薪炭材需要の減少により,その利用価値を見いだせない状況が続いている.現在,やんばるの森を積極的に利用した経験を持つのは,高齢の方々に限られている.彼らが持つ森林利用に関する経験を,地域別に民俗的な観点から,収集・整理することが急務と考えられた.

参考文献
中須賀常雄編1995. 『沖縄林業の変遷』 ひるぎ社.

佐々木高明1972.『日本の焼畑』古今書院.

Masuno, T., and Nakasuga, T. 2009. Biomass of Coarse Woody Debris in Subtropical Evergreen Broad-leaved Forest on Northern Okinawa Island, Japan. Kanto Journal of Forest Research 60:207-210.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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