抄録
I.はじめに
人間活動の質とその周囲の陸水の質との関係について,系統だって説明を行うために,多くの点で対照的な地域として,日本とオランダにある二地域を選び,両地域の浅層地下水・湧水の水質と人間活動,および,その背景について,調査を行っている。まず本発表では,水質の比較を行った結果を示す。
II.研究対象地域
対象とした二地域はそれぞれ,日本の千葉県北西部,および,オランダのアムステルダム・ユトレヒトの両市間に位置する。
III.利用データと解析手法
日本の調査地域(以下JP)では,2000年9月から2005年8月までに採水した湧水のデータを用いた。台地上面との標高差は3~21mである。オランダの調査地域(以下NL)では,TNO(オランダ応用科学研究機構)のDINO(オランダの地下のデータと情報)に2008/12/09時点で公開されていた地下水水質の分析結果を用いた。採水時期は1968年から2002年,地下水位は2~30mである。両者の補完の目的で,JP内に位置する小地域(以下Js)における台地の浅層地下水の調査結果(芳野2004,東京大学大学院新領域創成科学研究科修士論文)も解析に用いた。採水時期は2003年8~9月,地下水位は0~11mである。
Jsを含めた上記三地域において,それぞれ105地点1サンプル,全部で315サンプルを用い,主要無機イオン(ナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウム,アンモニア,塩素,硝酸,硫酸,重炭酸の各イオン。ただしアンモニアはNLのみ。)の濃度を解析に用いた。JP・Jsにおける重炭酸イオン濃度は,現場測定のアルカリ度から換算したものを用いた。
データの解析には,アロメトリー(相対成長)の概念を導入した。具体的には,主要無機イオンの合計濃度(以下TMII)を,イオン濃度全体の大きさを示す指標として用い,JP・NL・Js内のサンプルを,TMIIの昇順に基づき,それぞれ7つの階級に分けた。階級ごとに,各無機イオン濃度とTMIIの平均値・変動係数を求め,平均イオン濃度とイオンバランス,階級内でのばらつきの大きさを観察した。また,それらの地域による違いをみた。
IV.結果
JP・NL・Jsの全地域において,ほとんどすべての無機イオン濃度が,TMII増加に伴っておおむね増加するが, 7つの階級の平均値間を直線で結んだ折れ線の傾きには,イオンによる違いや,階級によるばらつきがある。NLのナトリウム, カルシウム, 塩素, 重炭酸の各イオンでは,ある階級を境に系統的に傾きが異なる。同階級内での地点間のばらつきの大きさを示す変動係数は,カリウムや,アンモニウム(NLのみ),硝酸・硫酸の各イオンなどがおおむね相対的に大きいが,階級による漸増・漸減もみられ,各イオンが与えられる過程の差異を反映していると思われる。
イオンバランスには地域による基本的な差異があり,また,階級による違いもみられる(図)。NLでは大きい階級になるにつれて,塩水などの影響とみられる形状が支配的となる。一方,JPとJsとでは,各イオンの漸増に伴う両者の形状の接近がみられる。
