抄録
バングラデシュの高水ストレス人口が,3つのSRESシナリオ下における社会経済データと6つのGCMを用いて,見積もられた.まず,各シナリオに基づく人口とGDPを抽出し,農業用水,工業用水,生活用水の各セクターに関する水利用の将来予測を行った.全体の水利用量のうち,農業用水が大半を占めている.さらに,各水セクター別にみると,各シナリオ下での違いは農業用水と生活用水ではあまり見られないが,工業用水はシナリオA2で最も多くなり,2070年代にはほかのシナリオの倍近くになる.将来予測された水利用量と人口から求められた高水ストレス人口は,シナリオA2でほかのシナリオの倍程度となり,シナリオA1とB1では,2055年をピークに低下する.一方,高水ストレス人口比は,将来もほぼ一定で変わらない.このことから,将来新たに高水ストレスに曝される地域はバングラデシュでは少なく,高水ストレス人口の原因は,既に高水ストレスに曝されている地域の人口の増加と考えられる.つまり,気候変動の高水ストレスに対する寄与は小さいと言える.適応策により社会の脆弱性を減らせば,深刻な被害の回避も見込める.今後は,季節変化を考慮した年単位から月単位での算出を行う必要がある.また,ダムなど貯水池のオペレーションを考慮したモデルを含めた,高水ストレス人口の算出も進めたい.