日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S304
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沖縄におけるジオツーリズム推進の可能性
*大島 順子
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抄録
1.はじめに
 ジオツーリズムと称し、これまでほとんどの人に興味や関心がいかなかった火山や地層などの地質資源の魅力をアピールすることの取り組みが始まっている。それは、琉球列島ならではの自然景観をあらためて見直すという、子どもから大人を巻き込む学習機会を創出し、自然観光資源として適切に観光客を誘致することで地質遺産を後世に伝える動きといえる。本発表では、沖縄におけるジオパークやジオツーリズムの推進に向けて配慮されるべき事柄と可能性を述べる。

2.聖地であることが多い沖縄のジオ・サイト
 ジオツーリズムの対象となる場所には、岩山や洞穴がある場合が多い。洞穴は昔から人の暮らしとかかわりをもってきた。例えば、洞穴の入口付近を風葬の場としたり、洞穴の入口を囲って墓として利用してきたことからも関係が深い。特に、祖先や自然を崇拝し、山や川、海、木、石に神が宿るといわれている沖縄では、神が降臨した場所や神を祀った場所を御嶽(ウタキ)、聖地と呼び、人々が祈りを捧げている場所であることが少なくない。また、沖縄戦においても、洞内を流れる水が貴重な飲料水にもなり、多くの人々の命を守る防空壕としての役割も担っていた。現在、沖縄県内には数千を数えるほどの御嶽が存在するといわれ、探し出せていない聖地が数多く存在するともいわれている。
ジオ・サイトの発掘やその取り扱いにおいては、神聖な空間を大切に守ってきた先人たちに敬意を払うのは当然のこと、適切な解説者の存在、立ち入る場所の許可、常識的な作法やモラルの徹底など、利用のガイドライン整備が必須である。状況によっては人が立ち入ることの規制や立ち入らせない形で保護しなければならない場所があることを理解し、対象地として除外するという判断が観光資源として利用する際には求められる。

3.専門家やインタープリターの役割と期待
 長い年月を経て形成される地形や地質は、観光資源として一般的に地味で、その普遍的価値やメッセージともいうべき地球と人間のかかわりを伝えることが難しい。瞬時な動きのある生き物や彩のある植物とは異なり、地質や岩石は華やかさに欠け、それがマニアックな世界と色づけてしまう所以でもある。 ところが、それに魅せられた専門家たちは、フィールドで認められる現在の地質現象の形態やプロセス、メカニズムをはじめ、人々の暮らしや土地利用のつながりを様々な生命現象と生態系、地質学的特徴や気象・気候、歴史、文化と関連づけて語ることができる大切な仲介者の役割を担っている。
地質学や地球科学という分野は、対象がみずから言葉を発するものではないため、通常の自然解説よりもその意味や素晴らしさを伝える人材(ガイド/インタープリター)の存在は、欠かすことができない。地誌学や人類学の知識も身につけ、テーマやコンセプト、ストーリーなどをプログラムとして組み立てる能力、話し方や伝え方を中心とするコミュニケーション能力を備えていることが求められる。インタープリターによって、これまで目立つことのなかった地質や地形といった素材は、いかようにも光輝き、観光資源としての社会的認知が高まることが期待される。
学校教育はもちろんのこと、現場で活躍する質の高いインタープリターの養成や一般の人々への普及啓発活動など、地質の専門家や自然地理学の教育研究者らに課せられたミッションは大きいが、可能性もまた大きい。
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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