日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 305
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海岸環境の保全活動に関する地理学的研究
愛媛県沿岸地域を事例として
*野本 竜広
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抄録

Abstract:
1.はじめに
 近年,環境意識の高まりとともに,各地で様々な環境保全活動が行われており,地理学の分野でも,その活動について研究が蓄積されつつある.例えば,池中(2008)は,里山と市民活動が行われることが多いその周辺環境を含めた総体的な活動地を指すものとして,里山フィールドと呼び,里山フィールドでの保全活動の実態や地域性について明らかにしている.山間部の里山に対して,柳(1998)は「里海」という概念を提唱している.「里海」とは,人手が加わることにより,生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域と定義している.臨海地域の環境保全活動については,淺野(2008)の宍道湖・中海と霞ヶ浦など海跡湖を対象とした研究がある.しかし,海岸を対象とした保全活動についての研究は少なく,地理的条件や地域背景を含めて考察する地理学の視点から海岸環境の保全活動を分析する意義があるといえる.そこで,本研究では,愛媛県沿岸地域における海岸環境の保全活動とその活動主体がどのような担い手によって運営されているのか,どのように成立したのか,変遷を明らかにすることを目的とする.なお,本研究で取り上げる保全活動とは保全的な自然保護活動内容を指す.例えば,里海フィールドの保全・管理のための作業,生物の調査観察,地元の地域に働きかける活動,自然保護活動などが挙げられる.
2.対象地域と方法
 愛媛県の海岸の総延長は1644.323km(平成19年版建設統計要覧)である.愛媛県沿岸は,比較的島が少なく広い海域の部分(灘)と,それらを区切る芸予諸島の多島海,宇和海のリアス式海岸の部分から成り立っている.第4回自然環境保全基礎調査における海岸調査報告書(平成6年3月環境庁調査)によると,平成5年度において,自然海岸は約42%,半自然海岸は約26%,人工海岸約31%,河口部は約1%と自然海岸はかなり減少している.
 『平成19年度版環境NGO総覧』の報告によると愛媛県における環境保全活動を行っている民間団体の設立件数は49件である.本研究の調査対象は,その中から,海岸を主な活動場所とし,加えてその活動を地域社会に向けて公表し,広めていこうという姿勢をもつものとして,16件の活動主体を選定した.各主体に対し,活動の実態を明らかにするため,活動主体の概要・発起人の属性・里海フィールドの特性・活動内容・社会的ネットワークなどの項目に関する聞き取り調査を行った.
3.海岸環境保全活動の概要
 16主体の活動内容は,以下の通りである.
表1 愛媛県で海岸環境の保全活動を実施している主体と活動内容

  開始年 事務局  形態  活動内容
1 1972年 明石市  任意   月1回のニュース発行,調査研究
2 1978年 松山市  任意   四十島の松保全,梅津寺海岸清掃
3 1979年 松山市  任意   重信川河口調査
4 1983年 今治市  任意   海岸の保全署名活動,陳情,学習会
5 1989年 西条市  任意   カブトガニの保護,海岸清掃  
6 1990年 今治市  任意   「瀬戸内法」改正運動,海岸生物調査
7 1998年 八幡浜市 NPO 自然・環境学習,自然修復・再生
8 2000年 上島町  任意   アマモ場再生
9 2001年 今治市  NPO   県内外団体との環境蘇生交流会
10 2002年 内子町  NPO 都市環境学習センター管理,自然観察調査
11 2003年 宇和島市 NPO コンブ増殖
12 2004年 松山市  NPO   地域環境の情報発信
13 2004年 松前町   任意    海浜植物群落の保全活動
14 2004年 西条市   任意   アマモ・コアマモ場再生
15 2004年 松山市  任意      EM石けん推進
16 2007年 今治市   任意   ガラモ場再生
(1) 松山市に事務局をおく主体が多い.実際にはすべての主体が里海フィールド活動を中心とするわけではない.
(2) 今治市を活動フィールドとする主体が複数存在する.
(3) 海岸域以外の市町に事務局が立地している.
文献
淺野敏久 2008.『宍道湖・中海と霞ヶ浦 環境運動の地理学』古今書院.
池中香絵 2008.市民団体による里山周辺環境での活動実態と地域性―奈良県大和平野地域を対象として―.人文地理60: 23-37.
柳哲雄2006.『里海論』 恒星社厚生閣.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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