抄録
研究の背景・目的
地震の際に生じる液状化現象は,地下水面以下のゆるく堆積した砂層で発生しやすいことから,液状化発生地点と沖積低地の微地形の関係が検討され,自然堤防,ポイントバー,旧河道,砂丘・砂州の縁辺部などの砂質堆積物で構成される微地形で液状化現象が発生しやすいことが指摘されている(若松 1993など).しかしながら,従来の研究でも,本来液状化が発生しにくいとされている後背湿地などにおける噴砂が報告されており,より詳細な検討が求められている.
そこで,本研究では静岡県西部の太田川下流低地を対象地域として1944年東南海地震で発生した液状化発生地点の分布の特徴を,微地形とそれを構成する堆積物に注目して考察する.なお,液状化現象に伴う地変として噴砂・噴水・地割れ・陥没・構造物の浮き上がりなどが挙げられるが,本研究では液状化の発生を示す指標として,液状化特有の地変 (今村・足立 1986) である噴砂を代表させて用いる.
研究方法
空中写真判読(1946年米軍撮影,縮尺1/40,000および1962年国土地理院撮影,縮尺1/10,000)から作成した地形分類図に,静岡県立磐田北高等学校科学部(1983)に基づく噴砂地点分布図を重ね合わせて噴砂の分布の特徴を検討した.また,噴砂が集中する地区を中心に約30地点のハンドボーリングを実施し,その結果から微地形を構成する堆積物の検討を行った.
対象地域
対象地域は磐田原台地の東側に位置し,太田川およびその支流である原野谷川によって形成された沖積低地である.低地の地形は大きく氾濫原とデルタに分けられ,臨海部には3列の砂州ならびに砂丘が発達する.本地域を構成する沖積層は軟弱な粘土層により特徴付けられ,地震の際の住家全壊率が80%以上に達する集落も存在した(大庭 1957).
結果・考察
対象地域にみられる噴砂について,自然堤防・ポイントバー,旧河道,砂丘・砂州の縁辺部など液状化現象が発生しやすい微地形(若松 1993)に対応する噴砂を微地形対応型噴砂,それ以外の地形に対応する噴砂を微地形非対応型噴砂として分類した.その結果,低地北部の三川地区および中部の土橋地区では自然堤防の縁辺部に噴砂が発生するほか,後背湿地にも噴砂が集中して発生していることが明らかになった.
両地域では空中写真上の色調の違いから,現在の後背湿地に埋没した微地形を確認することができ,ハンドボーリング結果に基づき地質断面図を作成したところ,液状化発生地点付近ではG.L.約-1.5mから細礫まじりの細砂~砂質シルトが0.5~1m程度の層厚で検出された.
また,加藤(1985)は土橋周辺の遺跡の発掘調査の際,細礫層の検出深度に着目し,南北方向に発達する埋没した旧河道および自然堤防を見出している.本研究で得られた堆積物は検出深度および分布から,この埋没自然堤防構成層に対応すると考えられる.なお,土橋地区上流側の埋没自然堤防上に立地する弥生時代後期の鶴松遺跡からは,この自然堤防構成層が液状化して形成された噴砂痕が検出されている.この噴砂痕は弥生時代後期の遺物を含む層を切るものと切られるものの2種類が存在するため,異なる発生時期の地震により形成されたと考えられる(袋井市教育委員会 1991).
以上から,本地域では現在見られる微地形のみならず,埋没微地形が噴砂の発生,すなわち液状化と深く関わっていることが明らかになった.