日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 313
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日本における斜面崩壊の発生と雨量強度―降水継続時間との関係
*齋藤 仁中山 大地松山 洋
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抄録
1. はじめに
 我が国では毎年,降水に起因する斜面崩壊が多く発生している.これらの危険度評価を行う上で,まず斜面崩壊の発生と降水量との関係を理解することは重要である.このため今日まで数多くの研究が行われてきたが,湿潤変動帯に位置する日本において,斜面崩壊の発生と降水量との関係を地域スケールで解析し,どの程度の降水量で斜面崩壊が発生するのかを解析した研究は少ない.
 そこで本研究では,降水に起因した1,174件の斜面崩壊を対象として,斜面崩壊が発生するまでの雨量強度(I)―降水継続時間(D)の関係(以下,「I-D」と記載)を統計手法(Quantile regression)を用いて解析した.そして,日本における斜面崩壊が発生する際のI-D閾値を算出した.また,得られたI--D閾値を世界各地での先行研究と比較することで,日本における斜面崩壊の発生と降水量との関係の特徴を明らかにすることを目的とした.

2. 方法
 本研究では,2006年~2008年の間に日本で発生した1,174件の斜面崩壊(降水に起因した事例)を対象とした(国土交通省河川局砂防部 編集).また,降水量のデータとして,解析雨量(気象庁 編集)を用いた.
 斜面崩壊データを解析雨量とオーバーレイすることで,各事例におけるI--Dを算出した.なお本研究では,降水の開始から斜面崩壊が発生するまでの降水継続期間をD (h),その期間における平均雨量強度をI (mm/h)とする.また降水の開始は,24 h以上の無降水期間後に降水が観測された時と定義した.
 次にI-Dの散布図を作成し(図1),Quantile regression を用いて斜面崩壊が発生する際のI-Dの関係を解析した.ここでは,後述する先行研究にならい,下側2\%を斜面崩壊が発生する際のI-D閾値とした.また,世界各地での同様の研究と比較するために,Iを年間降水量で標準化して(I(MAP)),I(MAP)-D 閾値の算出も行った.

3. 結果と考察
 I-Dの散布図を図1に示す.Dは3~537 (h)であり,Iは0.17~32.6 (mm/h)である.図1には負の相関関係があり,Dが長くなるほど,斜面崩壊が発生するIが減少することがわかる. 斜面崩壊が発生する際の閾値を求めたところ,I = 2.18*D^(-0.26) が得られた(図1).つまり日本においては,D<10 hでは2 mm/h 程度のIで,D>100 hでは0.5 mm/h 程度のIで斜面崩壊が発生する可能性があることを,図1は示唆している.一方で,D<10 h で発生する斜面崩壊は少なく,多くが10~200 hの間に分布している.
 閾値を標準化すると,I(MAP) = 0.0007*D^(-0.21) が得られた(図省略).この閾値を他の先行研究(e.g., Guzzetti et al., 2008, Landslides)と比較したところ,日本においては,特にDが短い領域(3≦D≦48 h)においてI-D閾値が低いことが明らかになった.
 以上より,日本において斜面崩壊が発生する際のIは低く,またDは長いことが示された.これは,日本は地形の起伏が大きく,またアジアモンスーン気候に属するため長時間継続する大雨の発生頻度が高いためであると考えられる. つまり,I--D関係からは,湿潤変動帯に属する日本における斜面崩壊の発生の特徴が示されたと言える.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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