日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 418
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産地の卸売市場における輸入青果物の影響
農産物をめぐるグローバル化とローカル化(1)
*荒木 一視
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抄録

1.背景と目的
近年の青果物輸入の拡大については論をまたない。地理学においても,海外産品が増加する中での産地の動向をとらえ,農業生産に対する影響を検討した成果が得られている。これら生産部門にかかわる研究に比較して,流通部門における輸入品の動向を取り上げた研究は少ない。そこで,本報告では卸売市場取引における輸入青果物の動向に焦点をあてたい。その際,わが国の有数の青果物産地である九州の市場を取り上げることで,産地における輸入品の位置づけをおこないたい。
2. 研究対象と資料
対象とする卸売市場は,九州に位置する8中央卸売市場(沖縄除く)のうち,経年的な資料がえられた6市場(福岡,北九州,久留米,大分,宮崎,鹿児島)である。対象年度は青果物輸入が拡大,定着してくる1990年代後半以降から1996年,2000年,2004年の3時点を取り上げた。食料需給表(第1図)によると2004年段階では果実全体の6割程度,野菜全体の2割程度が輸入によってまかなわれている。なお,わが国全体では卸売市場の経由率は野菜が77%,果実が49%(2004年)でともに減少傾向にあるが,地方では卸売市場の役割が相対的に大きいと考えられる。
3. 対象市場の動向
対象期間中に全体としての入荷増が認められたのは野菜における福岡市場のみであり,その他の市場は横ばい傾向か微減であった。期間中にわが国全体では,中央卸売市場の取扱金額が約15%程度減少していることから,各市場は比較的堅調に推移しているといえる。しかし,野菜入荷のシェアをみると福岡市場の増加を支えたのは九州以外の国内産地からの入荷と海外産の入荷で,総量が増加しているにもかかわらず自県産は減少傾向にある。自県産の入荷減という傾向は福岡市場のみならず,北九州市場,大分市場,宮崎市場などでも認められ,これら市場では自県産の入荷減が全体の入荷量の減少をまねいている。
 果実の場合でも入荷増が明確に認められる市場はなく,いずれもが横ばいか減少傾向にある。しかし,野菜における福岡市場や北九州市場では自県産シェアが約10%下落(大分では17%)しているのに対して,果実では自県産シェアの低下は認められない。
 これに対して海外産の入荷であるが,野菜の場合は大分市場で9%から19%へとシェアの増加が認められるものの,それ以外では概ね5%程度以下で,海外産品の入荷は極めて限定的である。他方,果実においては各市場とも20~30%台のシェアを占め,期間中にも福岡県下の3市場では5%程度の上昇が認められた。とくに大分市場では43%から53%と輸入品が国内産を逆転している。なお,宮崎市場と鹿児島市場では輸入品のシェアの拡大は認められず,宮崎市場では輸入品シェアは13~15%に押さえられている。
 九州の青果物卸売市場においては輸入品の直接的な影響は限定的であるといえる。その意味では,全国的な動向として把握される輸入青果物の影響には,流通経路による差異や地域差があり,一律な議論をするには十分な注意が必要である。むしろ,当該期間においては九州以外の国内産地との競合がみとめられた。

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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