日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 420
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タイ北部における対日輸出農産物の契約栽培の構造
農産物をめぐるグローバル化とローカル化(3)
*横山 智
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抄録
はじめに
 本研究は,グローバルなスケールで農産物の生産が展開され,食料貿易が再編される状況下で,農産物の供給地側の生産と流通,とくに農産物加工企業と農家の間にみられる契約栽培の構造を明らかにすることを目的とする.
 研究対象地域としたタイ北部では,日本,北米,EU諸国の商社・食品会社からの需要に応じて,さまざまな農産物が生産されている.今回,研究対象とした農産物は,ナス,ショウガ,エダマメの3種類である.調査した加工企業は,チェンラーイ県ウィエンパーパオ郡に立地するH社,およびチェンマイ県サーラーピー郡に立地するL社である.H社,L社ともに加工した農産物のほとんどを日本に輸出している.調査は,2007~08年にかけて各年約10日間実施した.

タイ北部における契約栽培
 H社は,浅漬けナス,加工ショウガ(塩蔵・酢調整・調整)を生産しており,L社は,冷凍エダマメを生産している.ナスとエダマメは農家との契約栽培、ショウガは仲買人との取引契約(半契約栽培)によって調達されていた.
 ナスの場合[図1(a)],もっとも単純な契約栽培の構造を呈している.加工企業と契約農家との間には,リーダーと称される現地農家が介在するだけである.苗木や資材なども加工企業から契約農家に提供される.加工企業と契約農家は,契約を結び,各農家ごとに生産量が割り当てられる.一方,ショウガの場合[図1(b)],基本的な契約栽培の構造はナスと同様であるが,種ショウガや資材の調達は,仲買人もしくは農家が独自のルートで仕入れることになっている.加工企業は,農家ではなく仲買人と契約を結び,買取り量を割り当てる.そして,エダマメの場合[図1(c)]は,単純な構造ではなく,行政単位ごとに責任者を配置する階層的な契約栽培の構造を呈していた。加工企業と契約農家の間には,企業のフィールドスタッフ,現地のリーダー(L社では、キー・ファーマーと称する),村落リーダーなどが存在し,それぞれ細かく役割が分担されている.

むすびにかえて: 農家リーダーと仲買人の役割
 いずれの契約栽培でも,加工企業と農家の間に存在する農家リーダーもしくは仲買人が輸出農産物の生産に重要な役割を果たしている.農家リーダーらは,農産物の集荷・輸送,そして農家への支払いを担当するだけではなく,化学肥料・農薬の使用管理まで行なう.日本のポジティブリスト制度のような,残留農薬に厳しい基準が設けられている国へ農産物を輸出するためには,化学肥料と農薬の管理が求められている.タイ北部の加工企業は,現地の契約農家を巡回指導するだけではなく,農家リーダーと仲買人に対して化学肥料や農薬の知識を講習会・技術指導会などを通して教育し,彼らに農家の化学肥料と農薬の使用管理を担わせることで,より徹底した管理体制を築いていることが明らかになった.
 そして,新しい動きとして,残留農薬を心配する一部のショウガ仲買人は,無農薬でショウガを栽培しているラオスに注目し,ラオスから種ショウガを仕入れていた.すなわち,対日輸出農産物の厳しい残留農薬基準とタイの仲買人に与えられた農薬管理という特殊な役割は,タイ国内のみならず隣国の農産物生産にも影響を与え始めている.今回の発表では,その契約栽培の構造を詳しく紹介する.

本研究の調査には,科学研究費補助金 基盤研究(B)「第3次フードレジーム下の対日農産物・食料輸出の展開と当事国農業・流通への影響」(課題番号:19320134,代表:荒木一視)を使用した。
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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