日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 616
会議情報

少数民族の分布特徴と共生のメカニズム
―中国雲南省少数民族地域の変容(1)―
*張 貴民白坂 蕃池 俊介杜 国慶大塚 直樹
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
 中国各地で漢民族と55の少数民族が暮らしている。少数民族が最も多い地域として内蒙古自治区などが知られているが、自治区と称しない地域にも数多くの少数民族が暮らしている。雲南省は少数民族の割合は全国7位、少数民族の人口数は全国2位を占めており、典型的な少数民族地域である。2000年に雲南省の総人口数4,236万人のうちに、少数民族の人口数は1,416万人で、33.4%を占めている。また、民族自治地方の面積は雲南省の総面積の70.2%に及んでいる。また、人口数が5,000人を超える少数民族は、彝族・白族・哈尼族・壮族・傣族・苗族・回族など25の民族に達している。更に少数民族の総人口数の60%以上が雲南省に分布しているのは徳昴族・哈尼族・基諾族・阿昌族・拉祜族・傣族・景頗族・布朗族・普米族・佤族など16の民族であり、特に徳昴族・哈尼族・基諾族・阿昌族・拉祜族など13の民族は95%以上の人口が雲南省に集中している。本研究は数多くの民族が暮らす雲南省における棲み分けと共生の実態を明らかにし、その存続基盤とメカニズムを考察するものである。
 雲南省における少数民族の空間的分布には気候条件が大きく影響している。熱病・瘴気を恐れて高温多湿な低地を避けて居住地を選択する傾向があり、居住地は歴史的に高原・山地から次第に低地へと拡大してきた。
 その結果、雲南省の少数民族は、マクロスケールでは各民族が入り交じって雑居し、モザイク状になっている。ミクロスケールでは、各少数民族が集中して居住している傾向がみられる。それぞれの民族は自らの居住地域がある。例えばチベット族は北西部の4,000m級の高地に分布し、怒族は西部の起伏の激しい山地斜面に密集している。独龍族は独龍河谷に、傣族は南西部の壩子と称する盆地に、壮族は南東部の石灰岩台地に集中して暮らしている。また、高度差によって、民族の棲み分けがより顕著に表れる。全体として標高1,400m-2,400m(中暖層という)は人口密度が最も高く、150m-1,500m(低熱層)はこれに次ぎ、2,500m-4,500m(高寒層)は人口密度が最も低い。壮傣語系の民族は低緯度の熱帯・亜熱帯の河谷に多い。西双版納・徳宏・臨滄等の地域では、傣族は500m-1,000mの所に多く分布し、それより高い1,500m前後の中山間地には布朗族・哈尼族・景頗族・亜昌族・佤族が居住している。一方、文山と紅河の両州では、傣族が標高1,000m前後の所に、瑶族と彝族の一部は1,500m前後の所に、そして苗族・哈尼族と一部の彝族は2,000m前後の高山地域に暮らしている。また、標高2,000mの壩子と呼ばれる盆地に白族・回族・納西族・蒙古族が居住し、それより高い山地に彝族と一部の白族が、更に上の高山地域に苗族・彝族と傈僳族が分布している。
 雲南省における多様な自然環境は、少数民族に多様な生活の場を提供し、居住地の選択を模索する段階に棲み分けの選択肢を提供した。同時に、少数民族は能動的に自然環境に適応し、それぞれの生業形態を確立してきた。その結果、遊耕・鋤耕・犂耕タイプの農業村落や、漁村、牧村、林村、狩猟・採集の集落が形成され、更に環境に対応してこれらの方式を組み合わせて経済活動を営む村落もある。
参考文献
張懐渝編 1988.『雲南省経済地理』新華出版社.
古川久雄 1997.雲南民族生態誌——生態理論と文明理論——、東南アジア研究35:346−421.
楊宗亮 2007.『雲南少数民族村落文化建設探索』四川大学出版社.
〔付記〕本研究は、日本学術振興会・科学研究費助成金・基盤研究(B)(課題番号20401043、平成20年度~平成22年度)「中国雲南省における少数民族地域の変容に関する人文地理学的研究」(研究代表者:張 貴民)の成果の報告の一部である。
著者関連情報
© 2009 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top