日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 615
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中国内蒙古・フフホト市周辺における酪農の展開と地域性
*関根 良平蘇徳 斯琴佐々木 達小金澤 孝昭
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抄録
○研究目的
中国内蒙古自治区のなかでも、北京や天津といった大都市に比較的に近接しており、それら大都市と高速道路によって結ばれるようになった自治区首都フフホト市周辺の農村地域では、従来とは異なる新たな経済活動が急激に展開し始めるようになった。すなわち、内陸部の経済発展を図るべく推進されている、農産物の生産と加工・流通・販売を担う企業を結合させ、農業・牧畜地域において企業が利益共同体として展開する「農業産業化経営」が各地で具現化し始めており、それに対応するかたちで農牧業生産は大きな変容を遂げつつある。 その一つが、フフホト市近郊で展開するようになった酪農である。内蒙古自治区とりわけフフホト市周辺は、都市地域で需要が急増している牛乳・乳製品の供給地域として位置づけられ、中国の大手2大乳業と称される「伊利」と「蒙牛」が本拠地を構えるに至った。こうした企業は「竜頭企業」と称されるが、この2企業はいずれも1990年代の創業という新しい企業である。そしてフフホト市周辺地域では、「伊利」「蒙牛」が生乳を確保するためにクーラーステーションを多数設置し、自らの集乳圏を形成している(長谷川ほか2007)。
こうした状況をふまえ、報告者らはすでに「生態移民」、すなわち農地・草地の劣化のような環境的要因や「退耕還草」政策や禁牧政策など政策的要因によって農牧業生産が持続できなくなった住民らによって形成された「移民村」における農業および酪農経営について予察的な検討を加えた(関根ほか2008)。本報告ではさらに対象事例を加え、「移民村」方式による酪農経営との比較検討を行い、当地域において住民の所得形成手段として展開するようになった酪農経営の現状とその地域性について世帯レベルのデータを用いて検討する。
○内蒙古自治区における酪農および乳業の展開
 中国統計年鑑によれば、2004年段階で中国国内には1,108万頭の乳牛が飼養されている。2000年の乳牛頭数は489万頭であり、わずか4年で2.5倍に増加したことになる。省・自治区別にみれば内蒙古自治区はその19.8%にあたる219.4万頭を占め、この頭数は省・自治区単位で第1位である。生乳の省別の生産量でみても、内蒙古自治区は2005年段階で497.5万t(全体の22%)を占めた。いうまでもなく内蒙古自治区は元来牧畜の盛んな地域であるが、1995年時点ではわずか49万tに過ぎなかった。生乳の生産量でみれば、2002年までは黒龍江省が第1位であり、統計上では内蒙古自治区は最近10年間に急速な伸びを見せた。その背景には、_丸1_もともと酪農に適した地域的条件を有するだけでなく、_丸2_高速道路の整備により北京~呼和浩特は今や5時間程度で到達可能であり、北京をはじめとする巨大市場の拡大と近接性が向上した、_丸3_「西部大開発」による12の開発計画地区の1つである「呼和浩特市和林格爾盛楽経済園区」の展開、といった要因が指摘できる。
 いずれにせよ、内蒙古自治区おいては最近10年間の酪農・乳業企業の展開と活動がきわめて活発であった。その主役が、中国国内トップの売上高を持つ伊利と、第2位の蒙乳である。この両者はともに1990年以降の創業であり、蒙乳は伊利の元副総裁が創業者である。この両者が、フフホト市の周辺にパーラーおよびミルククーラーを装備したステーションを多数設置し、生乳を確保している。こうした施設は地域の有力農家や投資家が整備し、彼ら自身および周辺の酪農家が乳牛を飼養し生乳を納入することになる。本報告では、世帯レベルで酪農の経営状況を検討する他、地域間比較をつうじてその地域性について明らかにしたい。
参考文献
関根良平・蘇徳斯琴(2008):中国内蒙古自治区における「生態移民政策」によって形成された「移民村」の特徴と課題,日本地理学会発表要旨集,73,p140.
長谷川 敦・谷口 清・石丸雄一郎(2007):急成長する内蒙古の酪農・乳業(中国),畜産の情報(海外編),208,p73~116.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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