日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 612
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衛星データを用いた中央アジア,天山山脈における最近の氷河変動
*奈良間 千之
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抄録

1 はじめに
中央アジアの天山山脈とパミールには多くの氷河が存在し,氷河の融氷水は大小さまざまな河川によって下流域へ運ばれていく.乾燥・半乾燥地域である中央アジアにおいて,オアシスの町や灌漑農地が広がる平野部は非常に乾燥しているため,人々が利用する水は山岳部より供給される.その主要な供給源の一部である氷河は,夏の乾季や干ばつ年においても安定した水量を下流域に供給している中央アジアの重要な水資源である.ところが,近年の気候変化の影響により中央アジアの山岳氷河の縮小が報告されはじめた.IPCC の気温上昇をもとに推定された2100年頃のヒマラヤ~パミールの氷河面積は43~81%まで減少するという報告もあり,今後予想される温暖化は山岳氷河の減少を導き,水不足などの問題を招きかねない.本発表では,中央アジア山岳地域の天山山脈に焦点をあて,最近の気候変化に対する氷河の現状について報告する.

2 方法
3つの衛星データ(衛星写真・画像)のCorona,Landsat 7 ETM+,ALOS (PRISM,AVNIR)を用いて,天山山脈の広域をまたがる5つの山域を対象に氷河の面積変化を計測した.3つの衛星データを利用することで,1970年頃,2000年頃,2007年頃の氷河の面積変化を広域で比較できる.すべての画像は地形図(1/50,000)をもとにオルソ補正をおこない,ArcGIS 9.2を用いて氷河のポリゴンを作成した.すべての画像は8月~9月に撮影されたものだが,その中には新雪により氷河のアウトラインを判断できない場所もある.そこで,複数の画像を用いてクロスチェックをおこなった.また,現地の気象データ(気温と降水量)をもとに最近の氷河変動の違いについての考察をおこなった.

3 結果
同時期に撮影されたCorona(1968~1971年),Landsat(1999~2002年),ALOS(2006~2008年)を用いることで天山山脈の5つの山岳地域の氷河の面積変化を比較することができる.最近の氷河の面積変化は各山域で大きな違いがあり,天山山脈外縁部(西天山,北天山)に位置する山域の氷河縮小は非常に大きい.一方,内陸部の内陸天山の氷河縮小は比較的小さく,特に降水量の少ない山域では大きな縮小はみられない. 1970年頃~2000年頃と2000年~2007年頃では,すべての山域でほぼ同じ変動傾向を示した.

4 考察
年降水量の多い山脈外縁部の氷河では,年間の涵養量と消耗量が大きいため,流動も早く,年間交換量の大きさから氷河縮小の地域的な違いが生じていると考えられる.また,小規模な氷河は気候変化に対し氷河末端への応答が速いため,1 km2未満の小規模な氷河が多くを占める山域で氷河縮小は大きい.最近の気温と降水量の変動をみると,降水量の変動に大きな変化はないが,夏の気温(6~8月)が上昇傾向にあり,夏の気温の上昇が最近の氷河縮小を招いていると考えられる.中国の東天山の報告も合わせると,天山山脈の山岳氷河は地域によって違いがあるものの全体的に縮小傾向にある.天山山脈外縁部には人口の集中する大都市やその周辺には農地が広がっており,氷河縮小による将来的な水不足が懸念される.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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