日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 718
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都道府県別心疾患・脳血管疾患年齢調整死亡率と気候との関係
*北島 晴美太田 節子
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抄録

1.はじめに
 日本における死因第1位は,明治~昭和20年代前半には感染症,昭和26(1951)年以降,脳血管疾患,悪性新生物へと変わり,疾病や死亡の季節変動も変化してきた。籾山(1970など)の季節病カレンダーによると,明治~大正には,多くの疾病死亡は夏季集中であり,心臓病,脳卒中,老衰は夏と冬に多発,癌は夏に多かった。昭和初期(1930~34)には癌をのぞく成人病の夏の多発期が消えて冬の多発期が残った。第二次大戦後(1952~56)には,夏に多発していた疾病のうち赤痢と下痢・腸炎を残して冬季多発に変わり,疾病の冬季集中現象が現れた。1957~61には赤痢だけ夏に残り,他は冬季集中となった。医療技術の進歩,生活水準の向上などにより夏季の山が克服され,冬山が残ったとされている。疾病死亡の「夏山は克服しやすいが,冬の山は克服しにくい」ことは,冬季の集中暖房が一般的ではない地域では,冬の寒さが寿命には不利であること示している。
 第二次大戦後(1955~1975)の都道府県別平均寿命は,第二次大戦前(1923~1933)よりも,月平均気温(以下では気温)と正相関が強い(北島・太田,2004)。すなわち,疾病死亡の夏山が克服され冬季集中となった時期に,都道府県別平均寿命は気温と相関が強かった。その後(1980~2000),都道府県別平均寿命は気候要素とはほぼ無相関となった(北島・太田,2004)。
 平均寿命は全死因の死亡率から算出されるが,1981年以降,死因第1位の悪性新生物の月別死亡数にはほとんど変動がないため(厚生労働省,2006),最近の平均寿命と気候要素には相関関係が見られないと考えられる。
 しかし,2004年の死亡月別死亡数(全死因)は冬季に多く夏季に少なく(厚生労働省,2006),現在も冬山型である。
 本研究では,死亡月別死亡数が冬季に多く夏季に少ない心疾患(死因第2位)および脳血管疾患(第3位)の都道府県別死亡率と気候との関係を調べ,気候が死亡にどの程度関連するのか明らかにすることを目的とする。

2.研究方法
 年齢構成の異なる集団の死亡率を比較できる年齢調整死亡率が,気候とどのような相関関係を持つかを調べた。
 分析には5年毎に厚生労働省が算出し公表している都道府県別年齢調整死亡率と,『第1回心疾患-脳血管疾患死亡統計 人口動態統計特殊報告』に掲載されているデータを使用した。また,都道府県別の気候値としては,『メッシュ気候値2000』(気象庁,2002)の都道府県庁所在地メッシュにおける値を使用した。

3.心疾患・脳血管疾患年齢調整死亡率と気温との相関
 3大死因の都道府県別年齢調整死亡率(2004年)の中で脳血管疾患(男・女),心疾患(男)は,年平均気温と有意な相関関係がある。
 心疾患年齢調整死亡率は,1970年以降(2004男除く)気温と無相関である。脳血管疾患年齢調整死亡率は,1970年以降,気温との相関は次第に弱くなったものの,負の有意な相関関係が継続しており,現在も平均気温が低いほど脳血管疾患年齢調整死亡率が高い傾向がある(図1)。1960年の北海道は低温にもかかわらず脳血管死亡率が顕著に低かった。2004年も同様の特徴がみられた。
 病類別では,急性心筋梗塞(男),脳梗塞(男・女),脳内出血(男・女),くも膜下出血(男・女)の年齢調整死亡率(2004年)が気温と有意な相関関係がある。

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