日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 809
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石川県能登地域における台湾人訪日観光の成立要因
*中村 文宣
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抄録

近年,日本における国際観光を巡る動きが活発化している.我が国が抱える国際観光のアンバランス(国際旅行収支の赤字)を解消すべく,2003年から実施されているビジット・ジャパン・キャンペーンでは,官民問わず積極的な取り組みがなされている.
外国人旅行者の誘客による経済効果が広く認識され,訪日観光に関する取り組みが全国に広がっていく中で,特定の地域や個別の観光事業者と外国人旅行者との結びつきが顕在化しており,地理的視点から外国人旅行者(ゲスト)と地域の観光事業者(ホスト)の関係について考察していくことが求められている.
本研究では,石川県能登地域における台湾人訪日観光を取り上げ,その観光行動及び誘客活動に携わる活動主体の取り組みを整理し,成立要因を明らかにする.研究方法として,ゲストである台湾人観光客とホストである能登地域の観光事業者への聞き取り調査をもとにしている.聞き取り調査により,それぞれの活動主体の役割や考え方,取り組みの相違点を明確にし,この地域における訪日観光の特性を見出したいと考える.
台湾人にとって日本は「身近な外国」であり,台湾では経験できない四季の変化,温泉や日本料理など日本固有のものに根強い人気がある.また,台湾人は首都圏,京都や奈良といった外国人に人気の地域だけでなく,地方への訪問も活発に行っており,研究対象地域である能登地域(北陸地域)も近年,台湾人観光客が増加している地域の一つである.台湾人観光客の能登地域への主な訪問形態は,40代~50代の富裕層が中心となった団体ツアーであり,日本への訪問経験を持つ訪日リピーターがその大半を占めている.また,この地域への訪問動機として最も多く挙げられたのが,和倉温泉の高級旅館である「加賀屋への宿泊」であった.
加賀屋は日本で初めて本格的に台湾人観光客を受入れた和風旅館であり,能登地域の台湾人訪日観光において主導的な役割を果たしている.この加賀屋が宿泊客に提供するホスピタリティは「加賀屋の流儀」と称され,旅館文化として高い評価を受けている.こうしたホスピタリティは日本文化に強い憧れを持つ台湾人にとって,そのニーズを十分に充たすものであり,加賀屋への宿泊経験はある種のステイタスとなっている.
台湾人観光客受入を開始した1996年より,加賀屋は台湾の旅行会社と連携し誘客活動を展開している.台湾における認知度の向上を目指したプロモーション活動に加え,訪日ツアー商品の造成も共同で行っており,加賀屋宿泊と能登地域の観光資源や台湾人に人気の高い立山黒部アルペンルートへの訪問を組み合わせたツアーを提供している.こうした活動が能登地域への訪問をさらに促している.
また,台湾人観光客の送客手段として,2003年に開港した能登空港へ運航されている国際チャーター便が大きな役割を果たしている.定期便のある国際空港から離れているという地理的に不利な条件を克服させ,台湾人観光客の能登地域における滞在の長期化と移動の負担軽減を実現している.チャーター便の運航に合わせて,地域内では「能登包機受入協議会」が組織され,加盟した観光事業者は積極的に台湾人観光客を受入れ,地域の受け皿として機能している.
台湾人観光客(ゲスト)と加賀屋(ホスト)が,加賀屋への宿泊といった特定の目的によって強い結びつきを示しており,台湾人が訪日旅行に求めるニーズに,加賀屋が提供するホスピタリティが応えることで両者の関係が成り立っている.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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