抄録
目的と方法
2008年5月26日17時30分~18時頃栃木県高根沢町、那須烏山市、市貝町において降雹が発生し、3億円もの農業被害が発生した。
本研究は現地調査のあと、今回の降雹のメカニズムを以下のデータを基に解析を行なった。
1:落雷地点は東京電力Webの雨量・雷観測情報
2:気象庁AMeDAS・気象官署の計363地点の、風向風速・気温および気圧(官署のみ)データ。また降雹発生地域の降水強度を調べるために全国気象レーダーを用いた。
3:気象庁発行の地上天気図、高層天気図、ウインドプロファイラのデータ。
4:降雹発生時における雲の分布状況を調べるために高知大学気象情報頁よりMT-SAT1Rの可視画像。
5:JRA-25より等圧面高度・東西風・南北風・気温の各要素。
6:気象庁観測で、ワイオミング大学にデータベースとして集められている高層観測データによるエマグラム。
結果と考察
現地調査を行った結果、
1:植物等の倒伏から推定した方向に発散が見られなかった。
2:被害域はほぼ楕円形であったが、扇形に広がった痕跡はない。
3:竜巻の発生を示唆する情報はなかった。
4:被害発生時間には、被害域を活発な積乱雲が通過中であった。
今回の降雹はダウンバーストや竜巻を伴うものではない。
地上場と高層場の両面から考察した降雹発生のメカニズムであるが、下層が湿潤であり、地上場では太平洋からの南風が吹き込んでいる。それだけでは温暖な状態であるかが理解できないので、JRA-25のデータを用いて作成した、925hPaの図(図2)を見ると、降雹が起こった範囲は、周囲に比べて気温が高い。エマグラムのデータと組み合わせると、温暖で湿潤な空気が入り込んでいた事がわかる。さらに、上層が寒冷(図1)であったことがわかる。
対流圏が不安定であることは、SSI(09JST:0.41, 21JST: -3.24)、LI(09JST:-2.78, 21JST:-2.41)、K指数(09JST:12.1, 21JST:35.1)などの値から、大気が不安定であることが理解できた。
持ち上げメカニズムについて考察する。局地天気図(図3)から、秩父を中心とした低気圧およびトラフラインが認められる。さらに17時頃には、シアラインが降雹域を通過している。よって、秩父を中心とした局地低気圧からのトラフラインおよびシアラインにより、降雹をもたらすような積乱雲を発生させるような上昇気流が起こったと考えられる。また上層の場で相当温位差を取った際に、Δθe>0より上昇流が発生しやすい場であったと推測される。
以上の3つの要因から積乱雲が発生し、鬼怒川上空を通過した直後、降雹をもたらしたものと解釈できる。