日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P1024
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バイオマスエネルギーの自給可能性からみた農山村
長野県内市町村の分類
*畑中 健一郎
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抄録

1.はじめに
 過疎・高齢化が進む農山村地域では、地域資源を活かしたさまざまな活性化策が検討されているが、近年の地球温暖化問題への関心の高まりを背景に、新エネルギーの一つであるバイオマスの供給源としての期待も高まりつつある。本研究では、長野県内の市町村を対象に、バイオマスのエネルギー賦存量を推定するとともに、エネルギー消費量との比較から農山村のもつバイオマスエネルギー自給の可能性について考察したので報告する。
2.研究の方法
 まず、長野県内の全81市町村を対象に、バイオマスを熱利用する場合を想定して年間のエネルギー賦存量(熱量)を市町村ごとに推計した。推計対象のバイオマスは、木質系(林地残材、間伐材、製材所廃材、果樹剪定枝、建設廃材)、農業系(稲わら、もみ殻、麦わら)、畜産系(乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏排泄物)、食品系(家庭などの生ごみ、食料品製造業、飲料・飼料製造業食品廃棄物)、生活排水系(下水道、農業集落排水、し尿、浄化槽汚泥)の計19種であり、それぞれ2005年前後の統計データ等を用いて推計した。
 また、都道府県別エネルギー消費統計のデータをもとに、部門別のエネルギー消費量を従業者数や人口で按分することによって市町村別のエネルギー消費量を推計し、先に求めたそれぞれのバイオマスエネルギー賦存量で賄うことができる割合(充足率)を求めた。さらに、充足率の違いと市町村特性の関係について考察した。
3.結果の概要
3.1 バイオマスエネルギー賦存量の推計
 各市町村内で年間に発生する19種のバイオマスをすべて利用した場合に得られるエネルギー賦存量の推計結果は、10~1,041TJで、平均137TJであった。各バイオマス種の占める割合の市町村平均は、木質系が56.6%、農業系が28.4%、畜産系が6.3%、食品系が5.8%、生活排水系が3.0%であった。多くの市町村で木質系の割合が高く、最高は98.8%、最低は12.2%であった。次いで農業系がもっとも高い割合を示す市町村が20市町村あり、最高は79.8%であった。木質系と農業系の占める割合の標準偏差はそれぞれ22.5、19.5と大きな値であったが、食品系と生活排水系は4.8、3.1と小さな値であった。
3.2 エネルギー消費量の推計
 エネルギー消費量の市町村別推計の結果は、29~26,272TJで、平均は1,861TJであった。バイオマスエネルギーでの充足率は、県全体では7.4%であったが、市町村ごとの充足率を平均すると20.1%であった。このように県全体の充足率が低いのは、規模の大きい市町村の充足率が低いためであり、最高は105.3%で最低は2.2%と、市町村によって大きな違いがみられた。
3.3 充足率と市町村特性
 充足率が50%以上の市町村は8村あり、木質系の割合がとくに高く、いずれも80%以上で、平均は92%であった。これら8村の林野率は平均で91%である。また、人口は平均1000人と少なく、人口密度も13人/km2と低い。高齢化率は39%と高く、5年間の人口増加率も-8.6%となっており、過疎・高齢化の進んだ小規模な山村の特徴を示している。一方、充足率が10%未満の市町村は33市町村あったが、林野率の平均が64%、人口の平均が約55,000人、人口密度は288人/km2、高齢化率は24%、5年間の人口増加率は-0.3%であった。充足率とこれら指標との相関係数は、高齢化率が0.67、人口密度が-0.54、林野率が0.53、5年間人口増加率は-0.48であった。
4.おわりに
 バイオマスでの充足率が高い市町村は林野率が高く、過疎・高齢化が進んだ農山村であるが、バイオマスによるエネルギー自給の視点からみると大きな可能性を持っているといえる。地球温暖化問題への関心の高まりから、化石燃料の代替エネルギーとしてバイオマスへの関心が高まっており、エネルギー供給源としての農山村のポテンシャルも評価していく必要があると思われる。なお、今回の推計では資源作物栽培の可能性や、バイオマスからエネルギーを得るために必要となるエネルギーのことは考慮しておらず今後の課題である。

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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