日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 213
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僑郷としての福建省福清市における農村地域の特徴
在日新華僑の送出地域に関する地理学的考察(2)
*張 貴民山下 清海張 長平松村 公明小木 裕文杜 国慶
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抄録
福建省は著名な僑郷(華僑の故郷)である。ここでは、福建省の中でも多くの出国者を送出してきた福清市を取り上げ、人口の外国への移動に伴う農村地域の変化とその特徴について報告する。
1.福清市における新移民の動向
 福建省僑務弁公室1997年の調査によると、福建省では、1949~1996年の出国者は53.35万人で、そのうちの90%以上は1979年以降の新移民であった。改革開放以来の1979~1998年の出国者数は55.96万人であった。そのうち不法出国者は約22万人と推定されている(朱2001)。
 1979年以来、福州市と泉州市は福建省の新移民の84.2%を占め、福建省における新移民の主要な送出地になっている。福建省の新移民の約半分を占める福州市の中でも、台湾海峡に面している福清市・長楽市・連江県は特に多くの新移民を送出し、不法出国者も少なくない。
2.福清市における農村経済
福清市の総人口は123.1万人で、そのうち83.8%は農村人口である(2007年)。中心部の融城を除いて全体として都市化の程度はまだ低い。これに対して第1次産業は国内総生産の13.7%を占めており、その地位も低い。農業総生産の中では、漁業が44.0%、牧畜業が33.0%、農業が22.5%をそれぞれ占めている。1人あたりの耕地面積が少ないこと、海に面していること、都市化に伴う肉類や乳製品の需要が増加したことなどから、漁業と牧畜業が発展してきた。
 漁獲量の75.7%は海面漁業によるものである。海岸線は348kmで、海域は911㎢である。これは漁業の発展に良好な条件を提供したのみならず、福清人の外向的,開放的な性格を養ってきたといえよう。また、福清市の牧畜業は主に都市近郊型の養豚・養鶏・酪農である。
 2007年の農家の総収入(いずれも1人あたりのもの)をみると、給与は2600.95元、家族経営(農業・漁業・非農業など)による収入は3658.43元、資産運営による収入(投資や利息)は81.88元、贈与による収入は2213.57元である。給与収入には出稼ぎによる収入が含まれているが、出稼ぎによる収入は出稼ぎ先が遠くなるにつれて増加する傾向にあり、その約60%は外国から得ている(第1表)。また、贈与による収入のうち、88.5%は出稼ぎ家族からの送金である。
3.福清市における農村の将来
福清市における作物作付面積52,630haのうち食糧作物は24,850ha、非食糧作物は27,780haである(福建省統計年鑑2008)。商品性の高い作物の割合が高くなった一方、粗放的な利用や耕作放棄が至る所に見られる。若者の都市へ、さらに外国への流出によって、農作業は高齢者に頼るしかない。また、融城などの都市部を中心に約19万人の外来人口がいるが、農村地域でもイチゴ栽培などが外来人口によって行われている。外から豊富な送金は、農村地域からの人口流出や農業衰退に拍車をかけている。
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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