日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 304
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マダガスカルにおける熱帯林の破壊と「森の民」
*池谷 和信
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抄録

1.はじめに  熱帯林と森の民とのかかわりについては、これまで、アマゾン、東南アジア、南アジア、アフリカなどにおいて数多くの研究が知られている(池谷編。2005ほか多数)。そこでは、森林破壊によって生活の場を失った森の民が、どのように適応してきたのかが中心的なテーマになっている。あるいは、森林保護の政策が浸透することで国立公園が設立されるとともに、森の民が公園の外に移住を余儀なくさせられ、彼らのなかで政府の政策に対する新たな抵抗運動が生まれた場合もある。しかし、マダガスカは熱帯林が広く分布しているのにもかかわらず、上述してきたような問題意識のもとで事例が報告されることはあまりなかった。これまで、Chantal  Blanc Pamard氏のようなフランスの地理学のなかでの研究の蓄積はみられる。  この報告では、マダガスカルの南西部に広がるミケアの森に焦点を当てて、近年の森林破壊や保護政策にともなう森の民ミケアの人びとの対応の仕方を把握することを目的とする。具体的には1980年代から2008年にかけての土地利用の変化を明らかにするとともに,古老への聞き取り調査や現地での観察から地域住民ミケアの人びとの暮らしの変化を把握する。現地調査は、2004年1月(科研費)および2008年12月(国土地理協会の資金:代表 飯田卓)にて行われた。森林政策に関与するNGOでの聞き取り調査や狩猟採集のキャンプに滞在することに努めた。 2.調査地の概観   ミケアの森は、バオバブの木を含む樹木の密集した森林である。それは、マダガスカルの南西部の海岸に近接していて、そこから内陸に広がっている。そこには、レムール類、イノシシ、 テンレックなど、比較的小さな動物が生息する。年間の降雨量は、約250から500mmで多くない。住民は、ここで古くから暮らす狩猟採集民ミケアに加えて、漁労民のベゾ、農牧民のマシコロなどがともに暮らしてきた。しかしながら、ミケアの森の近くには、島の南部のアンタンドロイ族による新しい集落も生まれている。 3.結果と考察  過去20数年のあいあだに、ミケアの森の面積は急激に減少している。また、地元の住民による森林利用や移住民(アンタンドロイ)などによる火入れによる開墾などが、森林面積が縮小してきた原因として挙げられる。また、森の民ミケアの生活は、既存の枠組みを使うと、森林依存型、農耕依存型、その中関系という3つのタイプに分類することができる。なかでも、森林依存型の実態をみると、現在でも狩猟採集が生業として維持されている世界的にまれな場所であることを理解することができる。  本報告では、ミケアの森に関する最新の成果を提示することから、ミケアの森と地域住民とのかかわり方の詳細を歴史的視点から言及する予定である。 引用文献 池谷和信編 2005『熱帯アジアの森の民』人文書院。

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