日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 305
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インド、ブラマプトラ川氾濫原の稲作と環境変動
アッサム州東部の天水田地域の一事例
*浅田 晴久
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抄録

1.はじめに
インド東北地方は国内でも最も開発の遅れた地域の1つであるが、その中でアッサム州は人口・面積が最大で、人口の70%、州の総生産の40%を農業に依存している。一方でアッサム州は世界最多雨地のメガラヤ高原にも隣接する多雨地域であり、州の中心を流れるブラマプトラ川は毎年のように洪水になる。また上流域のヒマラヤ山脈の環境変化の影響も容易に受けやすい。このような特異な自然環境とその変動によりアッサム州の農業、とりわけ主要作物である稲作は大きな影響を受けていると考えられる。
前回の発表(2008年秋季学術大会、於岩手大学)では、アッサム州の調査村の稲作が、機械化の進んでいない伝統的なものであると同時に、自然環境との関わりが強くみられることを稲作慣行・土地利用・品種利用の観点から明らかにした。
 そこで本発表では、調査村周辺の近年の環境(主に水文環境)の変化に対して、稲作がどの程度の影響を受け、住民がどのような対応を示したのかについて明らかにすることを目的とする。

2. 調査方法
 発表者はこれまで2007年7月 ~ 11月、2008年1月 ~ 7月の期間に調査村に滞在し現地調査を行った。さらに2008年12月 ~ 2009年3月まで実施予定のフィールドワークの結果も本発表で報告する。具体的には村人の家に下宿しながら、質問表を用いた全戸調査、観察、聞き取りを実施した。全戸調査の際には助手として村人に同行してもらい、聞き取りにはアッサム語が使用された。水田所有図等は携帯型GPSで測量した後、GISソフトで作図された。

3. 調査地の概要
 調査村のR村はアッサム州東部のロキンプル県にあり、ブラマプトラ川の北岸(右岸)に位置する。本村はチベットを源流としヒマラヤ山脈を越えて流れてくるスバンシリ川に近接しており、過去には堤防が決壊して大洪水が起こったこともあった。また、年間降水量は3000mmに達する。雨季の6~9月は月間降水量が400mm以上になるが、乾季の11~1月はほとんど降雨がない。
 R村の世帯数は96、人口は454人(男性244人、女性210人)になる。住民はタイ系のアホム(タイ=アホム)が大多数を占める。アホムは現在の中国雲南省から移動を開始しミャンマーを抜けて、1228年にブラマプトラ渓谷に入ったとされている。ヒンドゥー教徒でアッサム語を話す。R村の祖先は1910年代にブラマプトラ川の南岸から移住してきて現在の場所に村を開いたとされる。

4. 結果
 現在村で最も大きな問題となっている環境変化はスバンシリ川の河岸浸食である。村人によれば1980年ごろからスバンシリ川の本流が西方にシフトし、1990年ごろからは村人が河岸に所有していた耕地が浸食され始め、多くの村人がこの耕地を失った。
 2000年以降はスバンシリ川の水位低下が目立つようになった。それに伴い村の田の水位も低下している。低位田の範囲が小さくなり、バオ稲(深水稲)の栽培面積は縮小した。また湛水期間が短くなったためアフ稲(雨季前期作)の栽培もやめられ、ほとんどの世帯はハリ稲(雨季後期作)のみを栽培するようになった。
 降雨の変動も稲作にとって大きな問題である。2007年は雨季の降水量が多く田の水位は高かったが、収量は豊作であった。その一方で2006年は降水量がやや少なく河川水位も低かったために田に水がたまらず収量は少なかった。
 調査村の住民は氾濫原の豊富な水環境に対しては環境適応型の対応をしてきたが、河岸浸食や旱魃などの新たな環境変化に対しては対応が困難になってきている。

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