日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 412
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産業集積における域内・域外ネットワークとイノベーション
*與倉 豊
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抄録

_I_ はじめに これまで,主に都市経済学や地域経済学を専門とする研究者達を中心に,産業集積におけるイノベーションや成長を促す要因として,動学的外部性の存在が指摘されてきた.既存研究では,動学的外部性を_丸1_特定産業への特化,_丸2_地域に存在する産業の多様性,_丸3_市場の競争性によって捉えており,また集積の存在理由を,地理的近接性にもとづく企業間における知識・情報のスピルオーバーに求めている. 一方,経済地理学の分野では産業集積の「外部」とのつながりが重要であるという主張が多くの論者によってなされている.それは有形的なモノやカネがやりとりされる企業間の取引関係だけではなく,無形的な情報・知識の交換が行われる共同研究開発のような水平的な組織間関係においても当てはまる.そこで本研究では動学的外部性概念に加えて,産業集積「内」と「外」といった空間的な次元の違いを導入した回帰モデルを構築することによって,知識資源や研究開発ネットワークによって生み出される外部性と,イノベーションとの因果関係について検討する.

_II_ 推定モデルの枠組み 本稿では産業集積内におけるネットワークとイノベーションに関する計量的分析を行う際に,産学公連携による共同研究開発に関する悉皆的データが利用可能である「地域新生コンソーシアム研究開発事業」を取り上げる.また事業所企業統計調査で定義されている広域市町村圏(計350都市圏)を分析単位として用いる.  本回帰分析で採用した被説明変数は,各地域における,事業化を達成した主体の総数である.なお,被説明変数が計数データであり負の値をとらないこと,分布が右に歪み,かつ高い尖度を示すことから,OLSによる推定ではバイアスが生じてしまい不適当である.そこで本研究では,Feldman and Audretsch(1999)の分析枠組みに倣って,被説明変数の正規性の仮定を緩めた一般化線形モデルを採用し,ポアソン回帰分析によって推定している.  動学的外部性の効果は,_丸1_5つの技術分野別の従業者数による特化係数,_丸2_産業の多様性を計る指標であるハーシュマン・ハーフィンダール指数,_丸3_当該地域における従業者一人当たり事業所数を,全国における従業者一人当たり事業所数で除した値,によって捉えている.また域内および域外における共同研究開発による組織間ネットワークの影響を検討するために,「域内ネットワーク比率」と「域外ネットワーク数」を説明変数として採用している.さらに域内の大学や公設試といった知識資源の影響を捉えるために,学術開発研究機関と高等教育機関の従業者数を説明変数に含んでいる.

_III_ 推定結果 表1の推定結果から,域内の主体が多く参加して密な研究開発ネットワークが形成された地域ほど,イノベーションを多く達成していることが明らかとなった.ただし,域外との関係がイノベーションに対して負に働くわけではなく,域外の組織が有する知識が,域内の共同研究開発を補完する役割を果たしていることが分析結果から示唆された.また,動学的外部性のなかで,地域特化の経済と市場の競争性は,事業化達成に対してほとんど影響を与えていないことが示された.
表1 事業化達成の決定要因に関するポアソン回帰分析による推定結果

文献 Feldman, M. P. and Audretsch, D. B.(1999): "Innovation in cities: Science-based diversity, specialization and localized competition," European Economic Review, 43: 409-429.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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