日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 515
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北海道南空知地方における環境保全型農業の展開と産地振興の課題
商品化する日本の農村空間に関する調査報告(その5)
*宮地 忠幸
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抄録

_I_.問題の所在と研究目的  1960年代後半からの消費者運動の台頭にともない再評価されるようになっ た日本の有機農業は,1980年代後半以降の第二次有機農産物ブームを背景に拡大し,90年代以降になると従来の産消提携運動に支えられたものから「ビジネス化」の様相を呈しながら展開してきた.産消提携運動における「顔の見える関係」では,生産者と消費者の「交流」活動の実践が農産物の安心を確保するために重要視されてきたが,近年では,有機農産物認証制度に代表される基準づくりが,安全を確保するための手段として重要視されている.「ポスト生産主義」の担い手として位置づけられることの多い有機農業ではあるが,以上のような多様化する市場環境の下,有機農業に取り組む生産者や産地は,生産と商品化のあり方を「市場競争」の下で検討せざるを得ない状況にある.  本報告は,環境保全型農業への取り組みが比較的活発な北海道南空知地方を事例にその導入効果を分析し,環境保全型農業を通した産地振興上の課題について考察することを目的とする. _II_.南空知地方における環境保全型農業の取り組みの経緯と実態  北海道では,1990年代以降,消費者や実需者への対応とともに,生産コストの縮減をも視野に入れたクリーン農業を推進してきた(2000年には「北のクリーン農産物(Yes!clean)表示制度」を創設).Yes!clean農産物栽培農家を含め,環境保全型農業に取り組む農家は,とくに旭川市周辺地域や南空知地方に多い.札幌市近郊に位置する南空知地方では,1987年ころから外食チェーンとの契約栽培を契機に,たまねぎの減農薬・減化学肥料栽培の試みが始まった.北海道のなかで,経営規模が大規模とはいえない南空知地方では,輸入たまねぎや府県産はもとより,道内での産地間競争への対応として,減農薬・減化学肥料栽培の導入が図られた.その後,適正施肥量の試験等が実施されながら,1998年以降,本格的に産地としてクリーン農業の推進がなされてきた.こうした取り組みを先導してきたのが南空知玉葱振興会であり,とりわけ栗山町玉葱振興会に加入する生産者が組織的に積極的な取り組みを行ってきた.2007年現在,栗山町玉葱振興会(76戸)をはじめ,南空知地方の14集団が「Yes!clean農産物」の登録団体となっている. _III_.環境保全型農業の導入効果とその条件  北海道立中央農業試験場(2004)の調査結果によれば,栗山町におけるクリーン農業の導入は,慣行栽培と比較して10aあたり約30%のコスト上昇につながるとしている.この背景には,肥料費,資材費,農機具費,労働費の上昇が関わっている.このようなコスト上昇を補うためには,_丸1_選果費用の削減,運賃の生産者負担の軽減などによる集出荷以降の流通経費の削減,_丸2_5~10%の販売単価の上昇効果の実現,_丸3_収量の維持が条件とされている.JAくりやまでは,コンテナ出荷を取り入れ,生産者の選果作業の軽減,出荷経費の削減に取り組んでいる.しかし,ホクレンを経由した販売は,契約取引とはいえ,ホクレンの出荷計画に応じざるを得ず,プール精算でもある.また,北海道の独自認証制度のブランドとしての認知度が問われてもいる.さらに,収量低減のリスクも少なくない. _IV_.環境保全型農業を通した産地振興上の課題  以上のような経営リスクがあるため,主なたまねぎ農家の減農薬・減化学肥料栽培は,拡大傾向とはいえ慣行栽培との平行栽培のなかで行われている.また,出荷先も大規模農家ほど,系統出荷以外に業者や生協等など,独自の出荷形態を重視しつつある.経営方針の異なる農家が産地として組織的に環境保全型農業に取り組んでいくためには,上記の経営リスクの低減へ向けた各主体の取り組みの強化と集団的な経営農地の利用,調整が必要であろう.  参考文献 北海道立中央農業試験場生産システム部経営科 2004.『たまねぎYes!clean産地の育成・定着手法』報告書.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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