日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 603
会議情報

有珠火山・善光寺岩屑なだれの流れ山の長軸方向
*吉田 英嗣須貝 俊彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

はじめに
「流れ山」は長く地形学の研究対象となってきたが、それらの長軸方向に規則性があるか否かについては未だ統一的見解が得られていない。筆者らは、大規模崩壊した山体の伸張過程を反映した地形として流れ山を位置づけ、その配列の規則性を客観的に評価する試みが少ないことにその理由があると考え、GISを用いて定量的な記載を行った。

研究対象と方法
本研究では、有珠火山・善光寺岩屑なだれの流れ山地形を対象とする。善光寺岩屑なだれは、給源から土砂が扇状に広がって移動し、堆積した山麓拡散型岩屑なだれの典型例であり、約7000~8000年前における成層火山体の崩壊により、南西麓に明瞭な流れ山地形が形成された。
データソースとして、国土地理院が2000年に発行している火山土地条件図「有珠山」を用いた。まず、GIS(TNTmips, MicroImages, Inc.)上で流れ山の輪郭をデジタイズし、ポリゴンデータに変換した。また、流れ山ポリゴンの対角線のなかで最長のものを流れ山の長軸と定め、ポリゴンの重心と山体崩壊直前の推定山頂位置とを両端点とする線分の方向を流れ山の流向とみなした。そして、この線分と長軸とがなす交角のうち鋭角(0°≦θ<90°)をもって、流れ山の長軸方向の流下方向からの「ずれ」を表現した。

長軸方向の測定誤差
陸上における208個の流れ山の長軸方向の測定誤差は、ランダムサンプリングした10個の流れ山について、10回繰り返してポリゴンデータを取得した際の標準偏差によって評価した。その結果、本研究における長軸方向の標準偏差は、流れ山の面積および円形度が小さいほど大きな傾向にあることが示唆された。しかし、最大でも5°内外におさまると判断されるので、ずれの角度を15°刻みに6等分し、流れ山の長軸方向の配列と岩屑なだれの伸長方向との関係を検討した。

結果および考察
全ての流れ山を一括してみた場合、数においては45°~60°、75°~90°のものが多く、15°~30°のものが相対的に少ない。大きなサイズの流れ山を重視する観点から、累積面積のヒストグラムとしてあらわすと、75°~90°のものが突出するようになる。しかし、いずれも有意とまでは言い難い。 そこで、山体が大規模に崩壊する際には滑動から始まると考えられることから、残存する有珠火山の馬蹄形カルデラの開口方向とその幅を考慮し、北から東に42°傾いた幅2 kmの帯状のエリアを設け、その内側を流れの主部、外側を流れの縁辺部と定めた。このとき、流れ山のずれの角度の頻度分布は主部と縁辺部とで反対の傾向を示した。
さらに、上記のずれの角度が流走距離に応じてどのように配列しているのかを検討したところ、主部において流れ山は、給源に近いところ(3 kmまで)では直交する傾向にあり、3~5 km付近までは斜交、およそ5 km以遠では次第に平行に配列していく傾向が認められた。他方、縁辺部では、給源から3 km程度離れると斜交する流れ山が現れはじめ、4 km以遠で増加し、全体としてランダムさを増していく傾向が認められた。このように、有珠火山・善光寺岩屑なだれについては、全ての流れ山を一括して解析した場合には不明瞭であった流れ山の配列の仕方が、流れの主部と縁辺部とで明瞭に異なっていた。主部における流走距離に応じたずれの角度変化は、岩屑なだれが全体として引き伸ばされる状態にあったことを反映していると推測され、少なくとも善光寺岩屑なだれに関しては、流れ山の長軸方向を岩屑なだれの流動と関連づけられるという点で、流れ山の長軸方向に規則性があるといえることが明らかとなった。

著者関連情報
© 2009 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top