抄録
1. はじめに
1986年以降,海上保安庁により相模トラフから南海トラフにいたる海域で,マルチナロービーム音響測深器によって測深データが取得された。中田ほか(本大会発表)が報告するとおり,これをもとに3秒(約90m)メッシュの数値標高モデル(DEM)を新たに生成し,GIS等を用いて海底地形図や実体視用の画像を作成した。これらの画像は,これまでの250mメッシュDEMを用いた画像と比較して地形分解能に圧倒的な差が認められる。本発表では,四国沖にあたる南海トラフ西部(東経132度から145度30分)の地形とその特徴について,これまで明らかになった知見を報告する。
2.四国沖の海底地形
四国沖の海底地形は,南海トラフ側から1)外縁隆起帯,2)前弧海盆(室戸海盆,土佐海盆,日向海盆)3)四国から10~30km沖合いの大陸棚とその外縁斜面からなる。活構造は,外縁隆起帯周辺で最も顕著である。また,一部は前弧海盆を横切っており,外縁斜面の一部にも認められる。各地域の地形は大きく異なり,トラフから大陸棚に向けて描かれる模式的な活構造断面がどこでも当てはまる訳ではないことがわかってきた。
1)南海トラフ近傍の地形
南海トラフ沿いには,5列以上の短波長のリッジがトラフと平行に連続しており,外弧隆起帯に向けて深度が浅くなる。これらの変形は,プレートの沈み込みに伴って,海洋プレート上の堆積物が陸側に押しつけられる付加作用によるものと考えられ,それぞれのリッジは逆断層(前縁逆断層)によって形成されたものと考えられる。
南海トラフの走向は足摺岬の南方で屈曲しており,それより南ではほぼ南北となり,短波長のリッジは南海トラフと同様に屈曲する。なお,これらの付加作用による変形は,南海トラフでは四国沖で最も顕著に認めることができる。
2)土佐海盆付近の地形
土佐海盆周辺の外弧隆起帯は,室戸岬付近の室戸海脚では北北東―南南東走向で南海トラフに近づくと次第にトラフの走向とほぼ同じになる。室戸海脚から室戸海丘の隆起帯により土佐海盆と室戸海盆は隔てられる。この隆起帯にそって,地形面の撓曲など逆断層運動に伴う変形が認められる。
横ずれ断層がこの隆起帯にほぼ平行して延び,南海トラフ沿いの前縁逆断層付近まで連続しているのが新たに確認できた。
土佐海盆の南縁付近には小丘や凹地が多数,分布しているのが知られていたが,これらは南海トラフとほぼ平行する横ずれ断層により形成された地形や切断された地形であることが新たに解釈できた。
3)日向海盆周辺の地形
日向海盆の外弧隆起帯は高さ,幅ともに小さいうえ,ほぼ南北の走向をしており,それよりも東のものとは大きく異なる。日向海盆の南半部には,南北方向の高まりがやや不規則に分布する。足摺岬沖の沖ノ瀬海底谷から北西―南東走向に外縁斜面を横切り,長さ50kmを超える左横ずれ断層が分布することが新たにわかった。この断層はさらに南延長部で日向海盆に分布する南北方向の高まりを切断しているようにみえる。
外縁斜面の地滑り地形は室戸海盆以東と比較して土佐海盆,日向海盆では顕著でない。
本発表は海上保安庁と広島大学などが共同で行っている平成19-22年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(一般))「海底活断層から発生する大地震の予測精度向上のための変動地形学的研究」(研究代表者:中田 高)の一部を使用した。