日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P811
会議情報

最近60年間のイラワジ川の蛇行変遷
*松本 真弓
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
1.はじめに
 ミャンマーは、熱帯モンスーンの影響を受け年間降水量5,000mmに及ぶ豊富な水資源を有する国である。そのため、雨期に発生する洪水は大規模なものとなり、河川流路の変更が発生しやすい。しかし、一次産業で生計を立てる国民の多くは河川沿いに居住しているため、洪水時に新規の河道が形成されると家屋流出等の人命に関わる被害が多発する。これら被害を予測し未然に防ぐためには、河道の経年変化を把握し、河川変遷の傾向を掴んだ上での地域開発が重要である。流路の変更は蛇行部での切断や移動が著しいため、河川変遷を推察するには、屈曲度の計測が有効となってくる。

2.研究目的と手法
 本研究では、2003年~2010年に撮影された衛星画像を用いてイラワジ川中下流の河川屈曲度を計測し、現在の蛇行形態を明らかにした。先の研究で得られた屈曲度と、1940年代に作成された外邦図を用いて屈曲度を計測した(松本,2010)と比較し、約60年間における、河川蛇行部の変遷を明らかにしたい。研究対象地域は、イラワジ川本流の河口から上流までの流路延長約960km区間、および、河川変遷痕が顕著に見られるイラワジデルタの主要な3つの分流とした。屈曲度は、(鈴木,1998)の定義を用い、使用した衛星画像はgoogle earthより入手した。

3.結果
 分析の結果、蛇行変遷の形態は、11の区間に分類できた。(1)河口~78kmのデルタ前縁部では、1940年代から2000年代にかけて屈曲度が1.11から1.13と変化した。(2)78~219kmのデルタ内陸部では、河川としての分岐が多くみられる。しかし、屈曲度も最も大きい値を取る。1.38から1.36と減少している。(3)219~347kmの氾濫原平野部では、河道周辺に蛇行痕跡が最も見られる地帯となる。屈曲度1.34から1.35と増加するが変化率は1.0%で、変化に乏しい。(4)347~438kmの平野部では、屈曲度は1.06と小さく、流路は直線的である。(5)438~560kmの峡谷部では、(4)と同様に屈曲度は小さく1.03であり、1940年代との変化率は-1.5%と変化に乏しい。(6)560~668kmは、山地帯から峡谷部へ入る境界部分にあたる。峡谷部であるが蛇行帯は広く、蛇行が顕著に見られる。屈曲度は1.16から1.26となり、変化率9.1%と大きく増加している。(7)668~760kmの山地帯では、両岸から本流へ注ぐ支流が形成した扇状地地域である。蛇行幅は(6)と同様に広く、屈曲度は1.13から1.10へと減少している。(8)760~796kmの山地帯では、支流チンドゥイン川および、多数の小支流の合流地点となっている。両岸の扇状地の末端部が河道幅を狭めている。屈曲度は、1.23から1.19と減少傾向にある。(9)769~819kmの峡谷部から山地帯へ入る境界地帯では、屈曲度は1.07から0.92と最も低く流路は直線状になっている。また変化率は-13.5%と減少傾向にある。また、同様に(10)819~898kmの峡谷部では、屈曲度は1.10から1.06と小さい値をとる。(11)898~964kmのマンダレー盆地帯では、屈曲度は1.10から1.22であり、変化率10.5%と蛇行の程度が最も増加している。蛇行度の増加率が大きい区間は、(6)山地帯から峡谷部へ入る境界部分と(11)盆地帯であった。(7)から(10)にかけての山地帯では、屈曲度の減少傾向が見られた。また、流路延長は、1940年代ではマンダレー盆地まで流路延長1000kmであったのに対し、2000年代には946kmとなっている。イラワジ川は、全体的には流路長は縮小傾向にある事がわかった。
著者関連情報
© 2010 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top