抄録
1.はじめに
郊外住宅団地は、1960年代の高度経済成長期以降、大都市圏を中心に開発が活発に行われ、団塊の世代を含む1930年代後半から1950年代前半生まれの「拡大団塊の世代」(長沼ほか2006)を世帯主とする、「夫婦」あるいは「夫婦と子供」世帯が大量に入居した。開発から40年以上経過した現在、これらの住宅団地の多くは、第二世代(子世代)の成長による転出と、第一世代(親世代)の定住化によって高齢者の集積地区となっている。また、人口減少による商業施設や公共交通などの生活インフラの喪失が指摘されている。
こうしたなか、地理学ではミクロスケールでの人口高齢化の研究成果が挙げられており、人口高齢化の地域差という点で議論が行われている。伊藤(2008)は、東京大都市圏の郊外地域としての機能を有する神奈川県内の戸建住宅団地を対象とし、1960年代に開発された民間の戸建住宅団地における居住者の年齢構成が入居当初から異なり、それがその後の高齢化に影響を及ぼしていることを明らかにした。また、伊藤(2010)では、東北の広域中心都市である仙台市を対象とし、同様に1960年代に開発された戸建住宅団地間に年齢構成や高齢化の差異が存在することを明らかにした。この研究では、仙台駅からの距離と高齢化の進展との関連性が見出され、仙台駅から離れた市域縁辺部の住宅団地では、より高齢化が進展していることが判明した。そこで、本発表では上記二つの事例を踏まえ、さらに事例を重ねるため日本の三大都市圏の一つである名古屋都市圏を対象とし、1960年代に開発された戸建住宅における高齢化状況と、その差異について報告する。
2.研究対象地域
研究対象は、名古屋市とその周辺に位置する市町とし、1960年代までに造成が終了し、入居が認められる28団地とした。名古屋都市圏では1960年代に入居が開始され、日本でも有数の大規模開発地である高蔵寺ニュータウンが存在し、すでに谷(1997)による研究成果があげられている。また、名古屋市の高齢化状況に関しては、小学校区ごとの居住者の年齢構成を明らかにし、中心市
街地や郊外といった高齢化の比較を行っている斎野(1989)などの研究事例があり、本研究を行ううえでの貴重な資料となる。
研究対象とした住宅団地は、民間の戸建住宅団地であり、団地の規模は80区画以上である。これらは、昭和50年国勢調査の調査区別集計および平成17年の町丁字別集計においてほぼ同じ範囲で経年比較が行えるものである。
3.分析結果
名古屋都市圏で対象とした28の住宅団地は、1975年時点で平均年齢29.9歳、高齢者(65歳)比率4.4%であった。全国の値(平均年齢31.9歳、高齢者比率7.9%)に比べ、ともに低い値を示しているが、これまでの先行事例で取りあげた、神奈川県および仙台市の戸建住宅団地とはほぼ同じか、やや高い値である。
1975年における5歳階級別人口比率は、郊外住宅団地特有の第一世代(30~44歳)および第二世代(0~9歳)で二つの山を形成するかたちとなった。ただし、住宅団地によって差異がみられており、今後の議論の焦点になるものと思われる。
さらに本研究では、各団地の年齢構成の差異を求めたうえで、団地の類型化を行い、立地条件や居住者の属性との関連について考察を行う。また、現在(2005年)の高齢化状況を報告する予定である。
文献
伊藤慎悟2010.仙台市における戸建住宅団地の高齢化.地理学評論83(第5号に掲載予定である)
伊藤慎悟2008.民間戸建て住宅団地における高齢化の差異―神奈川県を事例として―.地理科学63:25-37.
長沼佐枝・荒井良雄・江崎雄治2006.東京大都市圏郊外地域の人高齢化に関する一考察.人文地理58:399-412.
谷 謙二1997.大都市圏郊外住民の居住経歴に関する分析-高蔵寺ニュータウン戸建住宅居住者の事例-.地理学評論70:263―286.
斎野岳廊1989.名古屋市における人口高齢化の地域的パターンとその考察.東北地理41: 110-119.